2020.08.13 ブログ
相続税対策で取得した賃貸不動産の評価で納税者敗訴
東京高等裁判所は令和2年6月24日、被相続人が相続開始直前に借入をして取得した賃貸不動産の相続税申告をめぐり、当局と納税者が争っていた事件について、財産評価基本通達6項に基づき、国税庁長官の指示による評価を認めた原判決を維持し、控訴を棄却しました。こちらの事件の概要を以下にご説明します。
目次
なぜ相続対策で賃貸用不動産を購入するのか。
相続税の計算方法を簡単に説明すると、プラスの財産(不動産や現金や株式等)からマイナスの財産(債務や葬式費用など)を控除した金額から基礎控除を除き、税率を乗じて全体の相続税額を計算することになります。
それでは、このプラスの財産とは、どの様な評価を行うかを考えてみます。例えば、現預金1億円持っていたとすると、相続税の評価は、相続財産1億円です。しかし、不動産や株式などの評価はこんなに簡単ではありません。現預金以外の各資産の内容によって、財産評価基本通達というものに従って、評価を行っていくことになります。例えば、1億円で販売されている不動産がこの財産評価基本通達によって、評価すると、1億円となることはほとんどありません。不動産の内容にもよりますが、半分以下の評価になることも多々あります。相続税対策で賃貸用不動産を取得するというのは、この評価の乖離を利用して、相続税を少なくしようとするものです。1億円現金で持っているより、その1億円で不動産を購入し、相続財産を圧縮するという事なのです。
本件の経緯
相続が発生する3年5カ月前に甲不動産を取得し、その11か月後に乙不動産を取得しています。その際に、被相続人は、購入資金のために、10億円の借入を行っております。乙不動産を取得してから、2年6か月後に相続が発生し、相続発生後9か月後に乙不動産を売却しました。
甲不動産の鑑定評価額は、7億5,400万円で、財産評価基本通達上の評価額は、2億4,000万円になります。また、乙不動産の鑑定評価額は、5億1,900万円で、財産評価基本通達上の評価額は、1億3,366万円で、相続後の売却価額は、5億1,500万円になります。従って、相続税の申告の時には、この甲乙不動産について、財産評価基本通達上の評価額で申告し、相続税を減額した後で、相続後に乙不動産について売却し5億1,500万円の現金を取得していることを問題視し、財産評価基本通達6項の適用により、国税庁長官の指示を受けて評価した金額とするように当局から是正をされているという状況です。
財産評価基本通達6項とは?
財産評価基本通達6項のタイトルは、『この通達の定めにより難い場合の評価』となっています。内容としては、以下の一文が記載されています。
『この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。』
つまり、土地については、財産評価基本通達7項以降のいろいろな細かい評価方法が記載され、建物については、財産評価基本通達88項以降に記載されていますが、この評価方法が不適当であれば、国税庁長官の決めた価格によることができるという内容のものです。
財産評価基本通達の評価額と鑑定評価額に約3.4倍の乖離
上記にも記載した通り、今回、鑑定評価額の甲乙不動産の合計金額は、12億7,300万円であり、財産評価基本通達上の評価額の甲乙不動産の合計金額は、3億7,366万円となり、その比率としては、3.4:1となり、大きな乖離が見られました。こちらが、相続税を免れる目的(いわゆる租税回避目的)で購入されたのか否かも大きな争点とされましたが、二審では、納税者は、本件各不動産の一連の取引は、事業承継のためのもので、租税回避目的ではない旨を主張しました。
東京高等裁判所の判断
本件甲乙不動産の鑑定評価額と財産評価基本通達上の評価額との3.4倍の差について,それ自体が大きなものと認められる。これで生じる税額の差や,被相続人や相続人らがあえて,本件甲乙不動産の購入や借入れが近い将来発生することが予想される被相続人の相続で,相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り,それを期待して,本件甲乙不動産の購入や借入れを企画,実行した。その結果,借入れと不動産の購入がなければ,本件相続の課税価格は6億円超であったにもかかわらず,本件通達評価額を前提とする申告で課税価格は2,826万円にとどまり,基礎控除により相続税は課されないことになった。
このため,第一審の通り,本件甲乙不動産は,財産評価基本通達の定める評価方法では適正な時価を適切に算定できないと認められ,財産評価基本通達の定める評価方法で評価した価額を時価とすることは,かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであると認められる。