2021.06.17 ブログ
相続対策による不動産購入における留意点を判例から読む。
近年、金融機関、不動産業者や税理士主導で、相続対策という名のもとに、不動産を販売するケースがよく見られます。こちらについては、今までは、相続発生(被相続人の死亡)後に売却をして、すぐに現金化することにより、相続税を不当に下げているという事で、税務当局から指摘を受け、相続時の評価額を更正されるというものでした。しかし、最近の東京地裁令和2年11月12日判決において、相続後、不動産を売却していないのにもかかわらず、更正処分等を受けたという判例がありました。
目次
判例の概要
判例の概要は以下の通りです。
・平成24年4月頃から,銀行との間で相続税対策についての相談が開始
・同年5月,相続税額の総額を計算した相続税概算計算書を銀行から受領
・平成25年6月,被相続人が肺がんにり患していることが発覚
・同年6月6日,銀行支店担当者から,節税対策として即効性ある中古物件の購入を勧奨され,物件の紹介を受けることを決定
・同年6月19日,業者不動産を紹介され,購入により相続税評価額が約9億円減少し,相続税を約3億円圧縮できる旨の説明
・同年7月12日,銀行支店及び業者担当者らとの打合せで,不動産購入を決め,価格交渉の結果,売買価額を15億円とする買付証明の差入
・同年7月25日,業者との間で,不動産を15億円で購入する旨の売買契約を締結
・同年8月20日,銀行から,賃貸不動産購入資金として,15億円を借入
・同日,不動産につき,売買を原因とする所有権移転登記
・同年9月16日,89歳で死亡
・平成26年7月1日,相続税申告(当初申告)
・平成27年8月14日,被相続人の配偶者死亡
・平成28年11月14日,対象土地以外の土地の評価誤りにつき修正申告
・平成29年11月22日,東京国税局内で評価通達6※に基づく評価を行う旨上申
・平成30年5月28日,更正処分等
財産評価基本通達6とは?
判例の概要中に出てくる評価通達6とは、正式には、財産評価基本通達6であり、ここには、どういう事が書いてあるかというと、以下の通りです。
財産評価基本通達6 この通達の定めにより難い場合の評価 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
そもそも財産評価基本通達とは、相続時のあらやる相続財産の評価方法を細かく記載されている通達になります。この財産評価基本通達で記されている方法で評価することが著しく不適当であれば、国税庁長官が決めれるという事が記載されている内容になります。従いまして、今回の案件の様に、時価と相続税評価額が著しく乖離している場合には、更正処分等を行えますよといった内容です。
相続発生後に売却しなくても、税務上否認されるリスクが生じてきた!?
今回の案件は、銀行主導で行われており、相続対策で不動産を購入したというのが、銀行の融資の稟議書に残っていたのではとの事です。もちろん、被告は、これに対して、銀行内部で稟議を通すため、あるいは、営業トークとしてと主張しましたが、裁判所には、当然ながら否認されています。争点としては、相続対策であったか否かなどかと思います。他の同様な事案においては、被相続人の意思能力の有無などが争点になったりすることもあります。
過去の判例においては、相続発生後に不動産が売却されて、あくまで相続税を軽減するために不動産を購入したことがあからさまだと、更正処分を行われたという事案が多かったのですが、今回の判例は、売却していなくても相続対策で買ったという事が立証されただけで、更正処分が行われました。
相続開始後4年経過してからの更正処分
当職の肌感覚ではありますが、相続税の税務調査は、通常、申告書を提出してから、1年ないしは2年以内には、実施されるイメージがあります。今回の案件は、4年経ってからの更正処分となっているところをみると、当初申告では、税務当局に気付かれていなく、配偶者の相続発生後に修正申告を行っており、その際に違和感を感じて、更正処分まで至ったのではないかと推測できます。これを踏まえると、当初申告でミスのない申告書を作成することが、一番の相続対策なのかもしれません。