2021.07.20 ブログ
相続税の申告期限である被相続人の死亡を知った日の翌日から10月以内とは!?
相続税申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ケ月以内となっています。死亡日ではなく、『死亡を知った日』となっているのは、死亡の事実が長期間判明しないケースがあったりするために死亡日ではなく、『死亡を知った日』となっているのです。どの様に規定され、過去の判決からどの様に司法が判断するのかについてを解説していきます。
目次
- ○ 相続税法基本通達 27-4 「相続の開始があったことを知った日」の意義
- ○ 死因贈与契約に係る相続開始日は『被相続人の死亡を知った日』とした事例
- ・判例から読む!相続の開始があったことを知った日とは!?
- ・正当な理由があるか否か
- ○ 相続放棄を巡る熟慮期間の起算点について
- ・争点となった民法916条とは!?
- ・再転相続人に対する判決と実務への影響
相続税法基本通達 27-4 「相続の開始があったことを知った日」の意義
「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいうのであるが、次に掲げる者については、次に掲げる日をいうものとして取り扱うものとする。
なお、当該相続に係る被相続人を特定贈与者とする相続時精算課税適用者に係る「相続の開始があったことを知った日」とは、次に掲げる日にかかわらず、当該特定贈与者が死亡したこと又は当該特定贈与者について民法第30条《失踪の宣告》の規定による失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日となるのであるから留意する。
(1) 民法第30条及び第31条の規定により失踪の宣告を受け死亡したものとみなされた者の相続人又は受遺者 これらの者が当該失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日
(2) 相続開始後において当該相続に係る相続人となるべき者について民法第30条の規定による失踪の宣告があり、その死亡したものとみなされた日が当該相続開始前であることにより相続人となった者 その者が当該失踪の宣告に関する審判の確定のあったことを知った日
(3) 民法第32条《失踪の宣告の取消し》第1項の規定による失踪宣告の取消しがあったことにより相続開始後において相続人となった者 その者が当該失踪の宣告の取消しに関する審判の確定のあったことを知った日
(4) 民法第787条《認知の訴え》の規定による認知に関する裁判又は同法第894条第2項の規定による相続人の廃除の取消しに関する裁判の確定により相続開始後において相続人となった者 その者が当該裁判の確定を知った日
(5) 民法第892条又は第893条の規定による相続人の廃除に関する裁判の確定により相続開始後において相続人になった者 その者が当該裁判の確定を知った日
(6) 民法第886条の規定により、相続について既に生まれたものとみなされる胎児 法定代理人がその胎児の生まれたことを知った日
(7) 相続開始の事実を知ることのできる弁識能力がない幼児等 法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日(相続開始の時に法定代理人がないときは、後見人の選任された日)
(8) 遺贈(被相続人から相続人に対する遺贈を除く。(9)において同じ。)によって財産を取得した者 自己のために当該遺贈のあったことを知った日
(9) 停止条件付の遺贈によって財産を取得した者 当該条件が成就した日(注)これらの場合において、相続又は遺贈により取得した財産の相続税の課税価格に算入すべき価額は、相続開始の時における価額によるのであるから留意する。
死因贈与契約に係る相続開始日は『被相続人の死亡を知った日』とした事例
被相続人の遠縁にあたる同居夫婦は、被相続人と生前に贈与契約(死因贈与契約)を締結していました。被相続人に他に相続人がいないことを確認するため、被相続人の死亡後、相続債権者及び受遺者への請求申出の催告に係る公告等の手続きを行った場合において、自己のために相続の開始があったことを知った日は、同手続きの請求申出期間満了日であるとして、期限後申告に係る無申告加算税の全部取り消しを求めたが、令和2年12月14日棄却されました。
争点としては、①『相続の開始があったことを知った日の翌日から10ケ月以内』に提出されていない期限後申告書であるか否か、②期限後申告書である場合に期限内申告書の提出がなかったことについて『正当な理由』があるか否かでした。
判例から読む!相続の開始があったことを知った日とは!?
本件の請求人は、相続債権者や受遺者からの請求を待ったうえで、死因贈与契約に基づく権利を取得することが確定すると勘違いしていたものと考えられるが、死因贈与に係る相続税の納税義務が成立する『財産の取得の時』とは、贈与者等の死亡によって、受贈者等が財産を取得した時をいう。『相続の開始があったことを知った日』とは、自己のために相続の開始があったことを知った日を意味する。今回のケースは、生前の死因贈与契約により、被相続人に係る相続開始日に財産を取得する権利が確定している。また、菩提寺から死亡の連絡を受けた事実もあるため、その日が相続開始があったことを知った日となります。
正当な理由があるか否か
正当な理由があるか否かの争点部分は、国税通則法第66条(無申告加算税)というところに、以下の文言が記載されています。
『…ただし、期限内申告書の提出がなかつたことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。』
ここで言う『正当な理由』というのは、災害、交通、通信の途絶等、納税者の責めに帰することのできない客観的な事情がある場合をいうのであり、死因贈与契約に基づく金員の支払の履行が未確定であったにすぎず、相続財産の全容が判明しなかったことをもって正当な理由があるとは認められないとされました。確かにこちらを認めてしまえば、相続財産を調べているので、申告期限遅れて申告しましたというケースがまかり通ってしまう事になりますので、裁判所もその辺も踏まえての判断なのかと思います。
相続放棄を巡る熟慮期間の起算点について
こちらの判決は少し複雑ですが、令和元年8月9日に最高裁判決が出たものです。簡単に概要を解説いたしますと、上記図の通り、まず、X銀行が被相続人Aに対して、8,000万円の連帯保証債務の履行などを求める訴訟を提訴しておりました。その後、①の通り、H24/6/30に死亡しております。本来的には、この相続人は、Aの妻子となりますが、この妻子が相続放棄をしておりますので、Aの兄弟姉妹が法定相続人となります。Aの兄弟姉妹10名のうち、9名は、これを受けて相続放棄を行ったのですが、Aの弟Bは、相続放棄をしないうちに、③でH24/10/19に死亡しております。そうなると、Bの子Cが被相続人Aの再転相続人となります。X銀行から債権譲渡により引き継いだ債権回収会社Yは、Cに対して、裁判所経由で債権回収を実行しようとしたというのが全体の概要となります。
争点となった民法916条とは!?
本件において、争点となったのは、民法916条の規定になりますが、民法915条と関係するところになりますので、以下に915条及び916条を記載します。今回のケースで言えば、Bが相続の承認または放棄をしないで死亡した時は、その者の相続人であるCが自己のために相続の開始があったことを知った日がいつであるかが争点となりました。
第915条
1.相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2.相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
第916条
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
再転相続人に対する判決と実務への影響
再転相続人Cに対して、最高裁判決がどの様な判決を下したかというと、結論は、上記線表の⑤から3ケ月以内に相続の承認又は放棄をすべきとしました。第一審判決では、④から3ケ月以内を原則としつつも、相当な理由があれば、⑤から3ケ月以内とされていましたが、最高裁判決は、この相当な理由の有無を問題とせず、再転相続人に対して、前相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障するため、⑤から3ケ月にするとの判決を下しました。また、相続税の申告期限についても、再転相続人が、再転相続により被相続人からの相続における相続人としての地位を、事故が承継した事実を知った日の翌日から10ケ月以内と解釈・運用されるものと考えられます。