2026.07.08 ブログ
非上場株式(自社株)の評価方法とは? 会社規模の判定から「比準要素数1の会社」まで図解で解説
上場していない中小企業の株式には、市場の株価がありません。では、社長が持つ自社株はいくらと評価されるのか。事業承継や相続税を考えるうえで避けて通れない「評価のしくみ」を、はじめての方にもわかるよう図でひもときます。
Section 01なぜ自社株の「評価」が必要になるのか
トヨタやソニーのような上場企業の株式は、証券取引所で毎日売買され、株価という客観的な数字がつきます。ところが、多くの中小企業のように上場していない会社の株式は市場で取引されず、値段のわかる「相場」が存在しません。これを税法の世界では取引相場のない株式(一般に「非上場株式」「自社株」)と呼びます。
相場がないなら評価しなくてよい、とはなりません。オーナー社長が亡くなって株式を後継者が相続するとき、あるいは生前に子へ贈与するときには、相続税・贈与税を計算するために「その株式はいくらの財産か」を必ず決めなければならないからです。この評価は、国税庁の財産評価基本通達という共通ルールに従って行います。
Section 02評価の全体像 ― 3つの分岐を押さえる
細かい計算に入る前に、まず地図を持ちましょう。非上場株式の評価は、大きく3つの分岐をたどって進みます。「誰が取得するか」「会社はどれくらいの規模か」「特殊な会社ではないか」。この順番を押さえるだけで、専門家の説明がぐっと理解しやすくなります。
Section 03STEP1 誰が取得するか(株主の判定)
最初の分かれ道は、株式を取得する人が会社にとってどんな立場の株主かです。オーナー一族のように会社を支配する同族株主が取得する場合と、影響力の小さい少数株主が取得する場合とで、評価方法がまったく変わります。
同族株主が取得する株式は、会社の実力を反映した原則的評価方式で評価します(このあと詳しく見る類似業種比準方式や純資産価額方式です)。一方、支配力のない少数株主が取得する株式は、受け取れる配当をもとにした配当還元方式という、比較的低い評価になる簡便な方法が使えます。株を持っていても経営に関与できない立場なら、その株の価値は「もらえる配当ぶんくらい」と考えるわけです。
Section 04STEP2 会社規模の判定(大・中・小)
原則的評価方式に進んだら、次は会社の規模を決めます。同じ「非上場」でも、上場企業並みの規模の会社から個人商店に近い会社まで千差万別。規模に応じて公平に評価するため、大会社/中会社(大・中・小)/小会社の5段階に区分します。
判定に使うのは、従業員数・総資産価額(帳簿価額)・取引金額(売上高)の3つの要素です。判定は2ステップで進みます。
従業員数で判定
直前期末以前1年間の従業員数が70人以上なら、それだけで無条件に「大会社」。70人未満なら次のステップへ進みます。役員は数えず、パート等は労働時間で換算します。
総資産・従業員 と 取引金額 を組み合わせる
「総資産価額と従業員数」で見た区分と、「取引金額」で見た区分を比べ、上位のほうを採用します。総資産と従業員のあいだで食い違えば、そちらは下位を選びます。
Section 052つの評価方式 ― 類似業種比準と純資産価額
会社規模が決まると、いよいよ株価の計算方式が決まります。柱になるのは次の2つです。中会社はこの2つを規模に応じた割合で併用します。
① 類似業種比準方式 ― 「似た業種の上場会社」と比べる
同じ業種の上場企業の株価を土台に、自社の1株当たりの「配当」「利益」「純資産(簿価)」の3つを比べて評価する方法です。上場企業という客観的なものさしに近づけるため、規模の大きい大会社に適しているとされます。利益や配当を反映するため、業績のコントロールが評価額に影響しやすいのも特徴です。
② 純資産価額方式 ― 「今、会社を解散したら」で見る
会社の資産と負債を相続税評価に洗い替え、正味の財産(純資産)から法人税相当額などを差し引いて評価する方法です。いわば「今この会社をたたんだら株主にいくら残るか」という発想で、規模の小さい小会社に適しています。長年かけて含み益のある不動産や内部留保をため込んだ会社ほど、この方式では高く出やすい点に注意が必要です。
| 会社規模 | 原則の評価方式 | イメージ |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 | 上場会社に近い / 業種の株価と比べる |
| 中会社(大) | 併用(比準0.90+純資産0.10) | 比準の色が濃い |
| 中会社(中) | 併用(比準0.75+純資産0.25) | ちょうど中間 |
| 中会社(小) | 併用(比準0.60+純資産0.40) | 純資産の色が濃くなる |
| 小会社 | 純資産価額方式 | 解散価値で見る(比準との併用も可) |
Section 06「比準要素数1の会社」など特定の評価会社
ここまでは「一般の会社」の話でした。ところが、財産評価基本通達には、通常の規模判定に進む前に振り分けられる特定の評価会社という別枠があります。会社の中身が特殊で、類似業種比準方式をそのまま当てはめると実態とズレてしまう会社です。代表例が比準要素数1の会社です。
比準要素数1の会社とは
類似業種比準方式では、前述のとおり「配当」「利益」「純資産(簿価)」という3つの比準要素を使います。このうち、直前期末で2つがゼロ、かつ直前々期末でも2つ以上がゼロの会社を「比準要素数1の会社」といいます。つまり、比べる材料が実質1つしか残っていない状態です。材料が乏しいまま上場企業と機械的に比べても妥当な株価にならないため、特別扱いされます。
該当するとどうなる?
比準要素数1の会社に当たると、原則として純資産価額方式で評価します。ただし救済措置として、類似業種比準方式を25%だけ取り入れた併用(比準0.25+純資産0.75)を選ぶこともできます。いずれにせよ純資産価額の比重が大きくなるため、含み益の多い会社では評価額が上がりやすくなります。
なお特定の評価会社には、このほかにも株式等保有特定会社(資産の多くが株式)、土地保有特定会社(資産の多くが土地)、開業後3年未満の会社、開業前・休業中・清算中の会社などがあります。いずれも原則として純資産価額方式など特別の方法で評価します。
Section 07経営者が今からできること
評価のしくみは複雑ですが、経営者として押さえるべき勘どころはシンプルです。
まず自社の「今の株価」を把握する
承継の議論は現状把握から。会社規模の区分と、どの評価方式が効くのかを一度試算しておくと、将来の税負担の見当がつきます。
比準要素の状況を毎期見ておく
配当・利益・純資産の3要素がゼロに偏っていないか。特定の評価会社に不意に該当していないかは、決算のたびに確認する価値があります。
早めに専門家へ相談する
評価は毎年の業績や資産構成で変動します。承継の時期・方法の設計しだいで結果が大きく変わるため、税理士など専門家と中長期で組み立てるのが近道です。
自社株の評価は「早く知る」ほど選択肢が増えます
本記事は制度の全体像をやさしく解説したものです。実際の評価額や有利な承継方法は、会社ごとの数字で変わります。具体的な試算や事業承継の設計は、相続・事業承継に強い専門家にご相談ください。
Section 08よくある質問
非上場株式の評価はなぜ必要なのですか?
相続や贈与で自社株を引き継ぐ際、相続税・贈与税の計算のために株価を評価する必要があるためです。上場株式のような市場価格がないため、財産評価基本通達という共通ルールに沿って評価します。
会社規模はどうやって決まりますか?
従業員数・総資産価額(帳簿価額)・取引金額(売上高)の3要素で、大会社・中会社(大中小)・小会社の5段階に判定します。従業員70人以上なら無条件で大会社です。
類似業種比準方式と純資産価額方式、どちらが有利ですか?
一般には類似業種比準方式のほうが評価額を抑えやすい傾向がありますが、会社の資産構成や業績によって逆転することもあります。低いほうを採用できる場面もあるため、個別の試算が欠かせません。
比準要素数1の会社に該当すると何が変わりますか?
原則として純資産価額方式で評価され、類似業種比準を25%だけ取り入れた併用も選べます。純資産の比重が高まるため、含み益の多い会社では評価額が上がりやすくなります。


