2026.06.27 ブログ
「ホールディングス会社」は要注意。 株式等保有特定会社の株価はこう決まる
事業承継・自社株評価コラム
本業の利益を株式投資に回し、有価証券をたっぷり抱えた会社。実はその「優良さ」ゆえに、自社株の評価額が跳ね上がる落とし穴があります。中小企業の経営者・後継者が知っておくべき評価の仕組みを、図解で整理します。
1そもそも「株式等保有特定会社」とは
非上場会社の株式は市場価格がないため、相続や贈与の際には国税庁の「財産評価基本通達」に従って評価額を計算します。通常は会社の規模に応じて類似業種比準方式や純資産価額方式を組み合わせて評価しますが、一定の会社はこの原則的な計算が使えません。その代表が「特定の評価会社」です。
なかでも株式等保有特定会社とは、会社の総資産のうち「株式・出資・新株予約権付社債」などの保有割合が一定以上を占める会社をいいます。本業で稼いだ資金を運用に回し、有価証券をたくさん抱えている会社が典型です。一見すると財務体質の良い「優良企業」ですが、評価の世界では特別扱いを受けることになります。
判定の基準 ── 総資産に占める株式等の割合
株式等の価額 ÷ 総資産の価額 = 株式保有割合
→ 原則的な評価が使えない
→ ただし他の特定会社の判定は別途必要
判定の基準は会社規模を問わず株式保有割合50%以上です。かつては大会社25%・中小会社50%という区分もありましたが、現在は一律50%に統一されています。割合は「相続税評価額ベース」で計算する点に注意が必要です(帳簿価額ではありません)。
「50%未満なら通常評価」ではありません
株式保有割合が50%未満でも、それだけで一般の評価会社が確定するわけではありません。「特定の評価会社」には、株式等保有特定会社のほかに土地保有特定会社、比準要素数1の会社・0の会社、開業後3年未満の会社、開業前・休業中・清算中の会社などの類型があります。これらは別々の基準で判定されるため、株式の基準をクリアしても、他の類型に該当しないかを順に確認する必要があります。
2なぜ特別扱いされるのか
原則的な評価で使う類似業種比準方式は、上場会社等の株価・配当・利益・純資産を基準として株価を算定する方法で、結果として純資産価額方式より評価額が低くなることが多い傾向があります。ところが、中身がほとんど「株式の持ち合い」のような会社にこの方式を当てはめると、会社の実態とかけ離れた評価になりかねません。
そこで国税庁は、資産構成が特殊な会社については「会社が持っている財産そのものの価値」で評価するという考え方を採用しています。これが純資産価額方式を軸にした評価です。結果として、含み益のある有価証券を多く抱える会社ほど評価額が高くなりやすい、という構造が生まれます。
ここがポイント
類似業種比準方式は、上場会社等の株価・配当・利益・純資産を基準として計算する評価方法です。結果として純資産価額(財産の実態)よりも評価額が低くなることが多く、資産承継において有利になるケースが少なくありません。株式等保有特定会社に該当すると、この方式を原則として単独では使えなくなり、財産の実額に近い評価へと寄っていきます。
3評価方法は2つから選べる
株式等保有特定会社に該当した場合、株主は次の2つの方法から有利なほうを選択できます。原則は純資産価額方式ですが、納税者の選択で「S1+S2方式」も使えるのがポイントです。
① 純資産価額方式 原則
会社の資産を相続税評価額に置き換えて評価し、負債と「含み益への法人税相当額(38%)」を差し引いて1株あたりの価値を求めます。会社を清算したらいくら残るか、という発想に近い方法です。
② S1+S2方式 選択可
会社を「株式等の部分(S2)」と「それ以外の事業部分(S1)」に切り分けて評価する方法。事業部分(S1)には原則的評価(類似業種比準の併用)を使えるため、純資産価額方式より評価が下がるケースがあります。
4S1+S2方式の仕組みを図解
S1+S2方式は名前こそ複雑ですが、考え方はシンプルです。会社の中身を「運用している株式」と「本業の事業」に分解し、それぞれにふさわしい評価を当ててから合算します。
+
S2:株式部分株式等の価値
=
RESULT1株の評価額
S1=株式等を除いた会社本来の事業部分。原則的評価(類似業種比準+純資産)で計算する。
S2=保有する株式等そのものの純資産価額。含み益への法人税相当額を控除して計算する。
2つの方式はどう違う?
| 比較項目 | 純資産価額方式 | S1+S2方式 |
|---|---|---|
| 考え方 | 会社全体を財産の実額で評価 | 事業部分と株式部分に分けて評価 |
| 事業部分の扱い | 純資産価額で評価 | 原則的評価(比準方式を使える) |
| 有利になる場面 | 事業の利益・配当が小さい会社 | 本業が好調で比準価額が低い会社 |
| 手続き | 比較的シンプル | 計算が複雑・専門家の関与が前提 |
どちらが有利かは会社ごとに異なります。本業がしっかり利益を出していて類似業種比準価額が純資産価額より低く算定される会社ならS1+S2方式が、事業が小さく株式運用が中心の会社なら純資産価額方式が有利になりやすい、という傾向はありますが、実際には両方を計算して比べるのが鉄則です。
「含み益への法人税相当額の控除」をめぐる2つの注意点
純資産価額方式・S1+S2方式のいずれでも、資産の含み益(評価差額)に対する法人税等相当額を控除できます。ただし実務では次の2点に注意が必要です。
① 控除率は38%(令和8年4月1日以後):従来は37%でしたが、税制改正により令和8年4月1日以後の相続・贈与から38%へ引き上げられました(令和8年3月31日以前は37%)。法人税率の改正に連動して今後も変わる可能性があります。
② 保有株式に「他社の非上場株式」が含まれる場合:その非上場株式そのものを純資産価額方式で評価する段階では、含み益への法人税相当額を控除できません。子会社設立による評価額の恣意的な引き下げを防ぐための取り扱いです。
5経営者が今からできる対策
株式等保有特定会社に該当すると評価額が高止まりし、事業承継時の税負担が重くなりがちです。判定は「株式保有割合50%」という1本の線で決まるため、その割合をコントロールすることが対策の中心になります。
- 株式保有割合の引き下げ:保有株式の一部売却や、事業用資産(不動産・設備)への組み替えで割合を50%未満に下げる。
- 本業への再投資:余剰資金を運用ではなく設備投資・事業拡大に回し、資産構成を「事業会社らしく」整える。
- 持株会社化の検討:グループ再編で株式の持ち方を見直す。ただし判定との関係を慎重に設計する。
- 早めの試算:現状の評価額と該当リスクを把握し、承継スケジュールから逆算して動く。
租税回避とみなされないように
判定基準日の直前に一時的に資産を組み替え、株式保有割合を意図的に下げる行為は、「課税時期前に合理的な理由なく資産構成を変動させた」として、その変動がなかったものとして評価し直される場合があります。対策は実態を伴う形で、計画的に進めることが欠かせません。
✓このコラムのまとめ
- 総資産に占める株式等の割合が50%以上だと「株式等保有特定会社」に該当する(相続税評価額ベースで判定)。50%未満でも他の特定会社の判定は別途必要。
- 該当すると、有利な類似業種比準方式が原則使えず、財産の実額に近い評価になり株価が上がりやすい。
- 評価方法は「純資産価額方式(原則)」と「S1+S2方式(選択可)」の2つ。有利なほうを選べる。
- S1+S2方式は会社を「事業部分(S1)」と「株式部分(S2)」に分けて評価する仕組み。
- 対策の鍵は株式保有割合のコントロール。ただし実態を伴わない直前の組み替えは否認リスクがある。
自社株の評価は、会社規模・資産構成・株主構成によって計算が大きく変わります。「うちは有価証券が多いかもしれない」と感じたら、早い段階で顧問税理士に現状評価を依頼し、承継の選択肢を整理しておくことをおすすめします。


