2026.07.16 ブログ
子供が未成年の場合の遺産分割協議について
相続人の中に未成年のお子様がいる場合、通常の相続とは異なる手続きが必要になることをご存じでしょうか。たとえば、お父様が亡くなり、お母様と未成年のお子様が相続人になるケースです。「親が子どもの分もまとめて手続きすればよい」と思われがちですが、実はこの場面では、親は子どもを代理できません。親と子の間に「利益相反」という関係が生じるため、家庭裁判所で「特別代理人」を選任してもらう手続きが必要になるのです。今回は、未成年の子がいる場合の相続手続きについて、利益相反の考え方から家庭裁判所での手続きの流れ、税務上の注意点までを解説します。
1.未成年者は遺産分割協議に参加できない
相続が発生すると、亡くなった方(被相続人)の遺産を誰がどのように引き継ぐかを相続人全員で話し合う「遺産分割協議」を行うのが一般的です。遺産分割協議は法律上の契約行為にあたるため、参加できるのは原則として成年者に限られます。
民法の成年年齢は2022年4月1日から18歳に引き下げられており、現在は18歳未満の方が「未成年者」です。未成年者は単独で有効な法律行為を行うことができないため、遺産分割協議に自ら参加して署名押印しても、その協議は有効に成立しません。通常、未成年者の法律行為は法定代理人である親権者(父母)が代理します。
それでは、親権者である母親が未成年の子を代理して遺産分割協議に参加すればよいのでしょうか。ここで問題になるのが「利益相反」です。
2.なぜ親が代理できないのか ― 利益相反行為とは
父親が亡くなったケースでは、母親と子どもは、どちらも相続人として同じ遺産を分け合う立場にあります。母親の取り分が増えれば子どもの取り分は減り、子どもの取り分が増えれば母親の取り分は減る――つまり、母と子は遺産をめぐって利害が対立する関係にあるのです。これを「利益相反」といいます。
この状態で母親が子どもの代理人を兼ねてしまうと、母親は「自分の取り分を決める立場」と「子どもの取り分を決める立場」の両方を一人で担うことになります。極端な話、母親が「遺産はすべて自分が相続する」という内容の協議書を、自分と(子どもの代理人としての)自分だけで作れてしまうことになり、子どもの利益が害されるおそれがあります。
そこで民法826条は、親権者とその子との利益が相反する行為については、親権者は子を代理することができず、家庭裁判所に子のための「特別代理人」の選任を請求しなければならないと定めています。なお、未成年の子が複数いる場合、子ども同士の間でも取り分をめぐる利益相反が生じるため、子ども1人につき1人ずつ、別々の特別代理人を選任する必要があります(民法826条2項)。
具体例
夫(45歳)が亡くなり、相続人は妻(42歳)と長男(15歳)・長女(12歳)の3人というケースを考えます。遺言書はなく、遺産は自宅と預貯金です。この場合、妻は自分自身の相続人としての立場と、長男・長女それぞれの利益が相反するため、2人の子を代理して遺産分割協議を行うことができません。さらに長男と長女の間でも利益相反が生じるため、家庭裁判所に長男用・長女用として2人の特別代理人(たとえば祖父と祖母)の選任を申し立てる必要があります。協議は「妻+長男の特別代理人+長女の特別代理人」の3者で行うことになります。
3.特別代理人が必要なケース・不要なケース
未成年の相続人がいれば必ず特別代理人が必要になるわけではありません。利益相反が生じるかどうかで判断します。
特別代理人が必要な主なケース
典型例は、親権者と未成年の子がともに相続人となって遺産分割協議を行う場合です。また、親権者は相続放棄をせずに未成年の子だけに相続放棄をさせる場合も、子の放棄によって親の取り分が増える関係にあるため利益相反となり、特別代理人が必要です。
特別代理人が不要な主なケース
一方、次のような場合には遺産分割協議自体が不要、または利益相反が生じないため、特別代理人の選任は不要です。
第一に、被相続人が有効な遺言書を残しており、遺産の分け方がすべて指定されている場合です。遺言のとおりに遺産を承継するのであれば協議の余地がなく、利益相反は生じません。第二に、法定相続分どおりに共同相続の登記をするなど、協議を要しない手続きだけを行う場合です。第三に、親権者が子と同時に(または子より先に)相続放棄をする場合です。親も放棄するのであれば、子の放棄によって親が利益を得る関係にないためです。このほか、子が成人するのを待ってから遺産分割協議を行うという選択肢もありますが、後述する相続税の申告期限との関係で注意が必要です。
なお、生命保険金(死亡保険金)は、受取人として指定された人の固有の財産であり、原則として遺産分割協議の対象になりません。したがって、未成年の子が保険金受取人になっている場合、保険金の受け取り自体に特別代理人は不要です(保険会社所定の手続きは親権者が行えます)。遺されたご家族の当面の生活資金を確保する手段として、生命保険の受取人指定は有効な生前対策のひとつといえます。
両親がともにいない場合は「未成年後見人」
ここまでは親権者が存命であることを前提としてきましたが、両親がともに亡くなっている場合など、未成年の子に親権者がいないときは、特別代理人ではなく「未成年後見人」の選任を家庭裁判所に申し立てることになります。未成年後見人は財産管理を含めて包括的に子を保護する立場であり、遺産分割協議にも子を代理して参加します。ただし、未成年後見人自身も共同相続人であるなど利益相反がある場合には、やはり別途特別代理人の選任が必要です。
4.特別代理人には誰がなれるのか
特別代理人の資格に法律上の制限はなく、その相続について利害関係のない人であれば選任される可能性があります。実務上は、祖父母や叔父・叔母など、相続人ではない親族が候補者となるケースが多く見られます。適当な親族がいない場合や遺産の内容が複雑な場合には、弁護士や司法書士などの専門家を候補者とすることもできます。
申立ての際に親権者側で候補者を挙げることができ、家庭裁判所が適格性を判断したうえで選任します。候補者を立てずに申し立てることも可能ですが、その場合は裁判所が弁護士等を選任することがあり、報酬が発生する分だけ費用負担が増える可能性があります。身近に適任の親族がいるのであれば、候補者として挙げておくのが実務的です。
特別代理人は、後見人のように子の財産全般を継続的に管理するわけではありません。選任審判書に記載された行為(遺産分割協議への参加、相続放棄の申述など)についてのみ子を代理し、その行為が完了すれば当然に任務は終了します。つまり、遺産分割のためだけの「スポット的な代理人」というイメージです。
5.家庭裁判所での手続きの流れ
特別代理人選任の申立ては、子の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。申立てができるのは親権者や利害関係人です。手続きの概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立先 | 子(未成年者)の住所地を管轄する家庭裁判所 |
| 申立人 | 親権者、利害関係人 |
| 費用 | 収入印紙800円(子1人につき)+連絡用の郵便切手 |
| 主な必要書類 | 申立書、未成年者・親権者の戸籍謄本、特別代理人候補者の住民票(または戸籍附票)、利益相反に関する資料(遺産分割協議書の案など) |
| 審理期間の目安 | おおむね1か月前後(事案により前後します) |
手続きの流れとしては、①遺産分割協議書の「案」を作成する、②必要書類をそろえて家庭裁判所に申立てを行う、③家庭裁判所による審理(必要に応じて照会書への回答など)、④選任審判、⑤特別代理人が子を代理して遺産分割協議書に署名押印する、という順序になります。その後、審判書と協議書を使って預貯金の解約や不動産の相続登記、相続税申告などを進めることができます。
6.実務上の注意点
遺産分割協議書の「案」の内容が審査される
申立ての際に提出する遺産分割協議書の案は、家庭裁判所が「未成年者の利益を害していないか」という観点から審査します。原則として、未成年者に法定相続分を確保する内容でなければ認められにくいのが実情です。「自宅を守るため配偶者がすべて相続したい」といった事情がある場合には、未成年者の取り分を減らすことがかえって子の利益にかなう理由(生活の安定、教育資金の確保方法など)を上申書等で具体的に説明する必要があり、事案によっては認められないこともあります。
特別代理人を選任せずに行った協議は無効
特別代理人を選任しないまま親権者が子を代理して行った遺産分割協議は、無権代理行為として原則無効です。子が成人した後に自ら追認しない限り有効になりません。無効な協議書に基づいて登記や税務申告を行うと、後にやり直しを迫られるリスクがあるため、手間を惜しまず正規の手続きを踏むことが重要です。
相続放棄をする場合は3か月の期限にも注意
被相続人に借金が多いなどの理由で未成年の子に相続放棄をさせる場合、相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」という熟慮期間の制限があります。未成年者については法定代理人が相続開始を知った時から起算されますが、親は放棄せず子だけが放棄するケースでは特別代理人の選任が前提となるため、選任手続きの期間も見込んだうえで、速やかに動き出す必要があります。期間内に手続きが間に合わない事情がある場合には、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることも検討します。
7.相続税の申告における注意点
相続税の申告・納付の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。特別代理人の選任には1〜2か月程度かかるうえ、その前提となる遺産の調査や協議書案の作成にも時間を要するため、未成年の相続人がいる場合はスケジュールがタイトになりがちです。
申告期限までに遺産分割がまとまらない場合は、いったん法定相続分で取得したものと仮定して申告・納税を行うことになりますが、この「未分割申告」では配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった大きな優遇規定を適用できません。「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておき、分割成立後に更正の請求等を行うことで事後的に適用を受けることは可能ですが、当初の納税資金の負担が重くなるおそれがあります。だからこそ、特別代理人の選任手続きには早めに着手することが大切です。
ワンポイント:未成年者控除
法定相続人である未成年者が財産を取得した場合、相続税額から「(18歳-相続開始時の年齢)×10万円」の未成年者控除を差し引くことができます。たとえば10歳のお子様なら80万円の控除です。控除額が本人の税額から引ききれない場合は、扶養義務者の相続税額から控除できます。
8.まとめ ― 遺言書の作成が最大の予防策
未成年の子が相続人になると、遺産分割協議の前に家庭裁判所での特別代理人選任という一手間が加わり、時間的にも心理的にも負担が大きくなります。また、協議書案の内容も家庭裁判所の審査を受けるため、「配偶者にすべて相続させる」といった柔軟な分け方が難しくなる場面も少なくありません。
この負担をあらかじめ回避できる最も有効な対策が、遺言書の作成です。遺言で遺産の分け方をすべて指定しておけば遺産分割協議そのものが不要となり、特別代理人を選任することなく相続手続きを進められます。配偶者に自宅と生活資金を確実に遺すといった、家庭裁判所の枠にとらわれない柔軟な財産承継も可能になります。あわせて、生命保険の受取人指定を活用して納税資金や生活資金を確保しておけば、遺されたご家族の安心はさらに高まります。小さなお子様がいるご家庭こそ、万一に備えた遺言書の準備をおすすめします。
当事務所では、相続税申告はもちろん、特別代理人選任が必要なケースのスケジュール管理や、弁護士・司法書士と連携した手続きのサポート、遺言書作成を含む生前対策のご相談まで、ワンストップで対応しております。未成年のお子様がいらっしゃる相続でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
※本コラムは2026年7月時点の法令等に基づいて作成しています。個別の事案については、必ず専門家にご確認ください。


