2026.08.23 ブログ
特定居住用宅地等とは?330㎡・80%減額の要件を税理士が徹底解説
自宅の土地は、相続財産のなかでも評価額が大きくなりやすく、そのまま評価すると相続税の負担が一気に重くなります。そこで実務上ほぼ必ず検討するのが「小規模宅地等の特例」です。なかでも自宅の敷地に適用される「特定居住用宅地等」は、最大で評価額を80%も減額できる非常に効果の大きい制度ですが、その分「誰が取得するか」で要件が細かく分かれ、判断を誤ると数百万円単位で税額が変わることもあります。本コラムでは、財産評価基本通達および租税特別措置法に沿って、特定居住用宅地等の要件を細部まで整理します。
1. 小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、被相続人(亡くなった方)や被相続人と生計を一にしていた親族が、居住や事業のために使っていた宅地等について、相続税の課税価格に算入すべき価額を一定割合まで減額できる制度です(租税特別措置法第69条の4)。
この特例が設けられている趣旨は、遺族の生活基盤や事業の継続を守ることにあります。制度の根拠や最新の取扱いは、国税庁のタックスアンサー「No.4124 小規模宅地等の特例」でも確認できます。自宅や店舗の敷地に本来どおりの相続税がかかってしまうと、納税のために自宅を売却せざるを得ない、事業をたたまざるを得ない、といった事態が生じかねません。そうした社会的に望ましくない結果を避けるため、生活や事業の基盤となる土地の評価を大きく引き下げているのです。
対象となる宅地等は、その利用状況によって次の4つに区分され、それぞれ限度面積と減額割合が異なります。
| 区分 | 主な内容 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 被相続人等の自宅の敷地 | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等 | 被相続人等の事業(貸付以外)用の敷地 | 400㎡ | 80% |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 一定の同族会社の事業用の敷地 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | アパート・駐車場など貸付用の敷地 | 200㎡ | 50% |
本コラムのテーマである特定居住用宅地等は、この4区分のなかでもっとも身近で、適用件数も多いものです。
2. 特定居住用宅地等の減額効果
特定居住用宅地等は、330㎡までの部分について評価額の80%を減額できます。言い換えると、課税対象となるのは残りの20%だけです。
たとえば自宅の敷地(240㎡・評価額6,000万円)に特例を適用できる場合、
6,000万円 ×(1 − 80%)= 1,200万円 まで評価が下がります。
差額の4,800万円が課税価格から圧縮されるため、税率が高い方であれば相続税の軽減額は非常に大きくなります。
面積が330㎡を超える場合は、330㎡までの部分に80%減額が適用され、超えた部分は通常評価となります。減額されるのはあくまで「面積按分した評価額」である点に注意してください。なお、減額前の宅地の評価額は路線価等に基づいて算定します。最新の路線価の動向は「令和8年度路線価が公表」の記事で解説しています。
3. 「被相続人の居住用」と「生計一親族の居住用」
特定居住用宅地等は、大きく次の2つの類型に分かれます。どちらに当てはまるかで要件の見方が変わるため、まず入口として確認が必要です。
(1) 被相続人が住んでいた宅地
被相続人自身が居住の用に供していた自宅の敷地です。もっとも典型的なケースで、後述する配偶者・同居親族・家なき子(別居親族)のいずれかが取得する場合に特例の対象となります。
(2) 生計を一にする親族が住んでいた宅地
被相続人と生計を一にしていた親族が居住の用に供していた宅地です。たとえば、被相続人が所有する土地に、仕送りを受けて生活する子が住んでいたようなケースが該当します。この場合は、その生計一親族本人(または配偶者)が取得し、申告期限まで居住・保有を続けることが求められます。
4. 取得者ごとの要件
特定居住用宅地等の最大のポイントは、「誰が取得するか」によって要件がまったく異なることです。ここを取り違えると、本来使えるはずの特例が使えなくなります。被相続人の居住用宅地について、まず取得者ごとの要件を一覧で示し、それぞれ詳しく解説します。
| 取得者 | 居住継続要件 | 保有継続要件 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 配偶者 | 不要 | 不要 | 取得だけで適用可。もっとも緩やか |
| 同居親族 | 必要(申告期限まで) | 必要(申告期限まで) | 住み続け・持ち続けが条件 |
| 家なき子 | 不要 | 必要(申告期限まで) | 配偶者・同居親族がいない場合のみ/6要件を全充足 |
(1) 配偶者が取得する場合
被相続人の配偶者が取得する場合、取得者ごとの追加要件は一切ありません。申告期限までの居住継続も保有継続も問われず、取得しただけで特例の対象となります。相続後すぐに売却しても、適用は否定されません。配偶者はもっとも要件が緩やかな取得者です。
(2) 同居親族が取得する場合
被相続人と同居していた親族が取得する場合は、次の2つをいずれも満たす必要があります。
- 相続開始の直前から相続税の申告期限まで、引き続きその建物に居住していること
- その宅地等を相続開始時から申告期限まで保有していること(=申告期限前に売却しないこと)
つまり「住み続けること」と「持ち続けること」の両方が、相続税の申告期限(原則として相続開始を知った日の翌日から10か月)まで求められます。なお申告期限の考え方については、「相続税の申告期限である被相続人の死亡を知った日の翌日から10月以内とは!?」もあわせてご覧ください。
(3) 家なき子(別居親族)が取得する場合
被相続人に配偶者も同居親族もいない場合に限り、持ち家のない別居親族が取得しても特例を使える余地があります。これがいわゆる「家なき子特例」です。ただし要件は厳格で、次の6つをすべて満たす必要があります。
- 取得者が、相続開始時に日本国籍を有しない者ではないこと(日本国籍がない一定の者は対象外)
- 被相続人に配偶者がいないこと
- 相続開始の直前において、被相続人の居住用家屋に同居していた相続人(法定相続人)がいないこと
- 相続開始前3年以内に、取得者・その配偶者・三親等内の親族・特別の関係がある一定の法人が所有する日本国内の家屋に居住したことがないこと
- 相続開始時に取得者が居住している家屋を、相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
- その宅地等を相続開始時から申告期限まで保有していること
かつては、自分の持ち家を親族や自身が経営する資産管理会社に売却し、名義上「家なき子」になったうえで(実際にはその家に住み続けたまま)特例を受ける、といった形式的な節税が可能でした。上記の④・⑤の要件は、平成30年度税制改正でこうした行き過ぎた節税を封じるために追加されたものです。過去の情報だけで「持ち家がなければ使える」と判断すると誤りますので、必ず現行要件で確認してください。
5. 老人ホームに入所していた場合
近年とくに相談が多いのが、被相続人が亡くなる前に老人ホーム等へ入所していたケースです。「入所した時点で自宅に住んでいなかったのだから、自宅は居住用ではないのでは?」と心配される方が多いのですが、一定の要件を満たせば、入所後も引き続き被相続人の居住用宅地として特例の対象となります。
- 被相続人が、相続開始の直前において要介護認定・要支援認定・障害支援区分の認定などを受けていたこと
- 入所先が、老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム・養護老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅などの一定の施設であること
- 入所後、その自宅を事業用や被相続人等以外の人の新たな居住用に供していないこと
これらを満たせば、自宅が空き家になっていても、また生計を一にする親族が引き続き住んでいても、特例の適用が可能です。逆に、入所後に自宅を第三者へ賃貸したような場合は、居住用としての適用が受けられなくなる点に注意が必要です。
6. 二世帯住宅の取扱い
二世帯住宅の敷地も、原則として特定居住用宅地等の対象になります。以前は建物内部で行き来ができない「完全分離型」だと同居と認められないことがありましたが、現在は構造上区分されていても、区分所有登記がされていなければ、建物全体に被相続人が居住していたものとして敷地全体が対象となり得ます。
7. 適用にあたっての手続きと注意点
(1) 相続税の申告が必須
小規模宅地等の特例は、相続税の申告書を提出して初めて適用される制度です。特例を適用した結果として納付税額がゼロになる場合でも、申告書に特例を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告する必要があります。「税額がゼロだから申告不要」と考えて申告を失念すると、特例そのものが受けられなくなります。
(2) 遺産分割が済んでいること
特例は、原則として申告期限までに宅地が分割されていることが前提です。申告期限までに遺産分割がまとまらない場合でも、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しておけば、後日その期間内に分割が確定した時点で更正の請求により特例を適用できます。
(3) 限度面積の調整(併用)
特定居住用宅地等(330㎡)と特定事業用宅地等(400㎡)は、原則としてそれぞれの限度まで完全併用でき、最大730㎡まで80%減額を受けられます。一方、貸付事業用宅地等(200㎡・50%)を併せて適用する場合は、区分ごとに定められた算式による面積調整が必要となり、単純に足し合わせることはできません。どの宅地に優先的に適用すると有利かは、㎡あたりの減額効果を比較して判断します。
8. 誤りやすいポイントとよくあるご質問
Q1. 相続開始後すぐに自宅を売っても大丈夫?
取得者によります。配偶者であれば売却しても適用に影響しませんが、同居親族や家なき子の場合は申告期限まで保有していることが要件です。申告期限前に売却すると特例が受けられなくなるため、売却のタイミングは必ず申告期限後にする必要があります。
Q2. 住民票だけ実家に置いていれば「同居」になる?
なりません。同居の判定は住民票の形式ではなく、生活の実態で判断されます。実際に生活の本拠がその家にあったかどうかが問われるため、住民票を移しただけで実態が伴わない場合は同居親族として認められません。逆に、実態として同居していれば要件を満たします。
Q3. 相続税が結局ゼロになるなら申告しなくてよい?
いいえ。前述のとおり、この特例は申告することが適用の条件です。特例適用後に税額がゼロになる場合であっても、期限内に申告書を提出しなければ特例を受けられず、結果として本来かからないはずの税額が発生してしまいます。もっとも失敗の多いポイントですのでご注意ください。
Q4. 店舗兼住宅(併用住宅)の敷地はどうなる?
建物の用途に応じて敷地を按分し、居住用部分は特定居住用宅地等、事業用部分は特定事業用宅地等として、それぞれの要件で判定します。全体を一律に扱うのではなく、利用実態に応じた区分が必要です。
9. まとめ
特定居住用宅地等の特例は、330㎡までの自宅敷地について評価額を80%減額できる、相続税対策の要ともいえる制度です。もっとも、効果が大きいぶん要件も細かく、「取得者」「同居・生計一の実態」「保有・居住の継続」「登記の状況」「生前の入所状況」といった複数の事実を正確に押さえる必要があります。
特に、家なき子特例は平成30年改正で要件が厳格化されており、古い情報のまま判断すると適用を否認されるおそれがあります。また、申告要件や遺産分割の状況によっても適用可否が左右されます。判断に迷う場合は、早い段階で専門家に確認し、生前対策と申告の両面から準備を進めることをおすすめします。
特定居住用宅地等の判断は、取得者・同居の状況・登記・生前の生活実態など、細かな事実認定の積み重ねです。
ご自宅の状況で特例が使えるか不安な方は、三瀬国際税務会計事務所までお気軽にご相談ください。生前対策の段階からサポートいたします。
※本コラムは令和8年(2026年)時点の税制に基づく一般的な解説です。個別の適用可否は事実関係により異なりますので、実際の判断にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。



