2026.08.18 ブログ
子会社株式の評価は「小会社方式」が基本|純資産価額と法人税額等相当額の注意点
子会社株式の評価は「小会社方式」が基本|純資産価額と法人税額等相当額の注意点
子会社株式の評価は、親会社(持株会社)の株価、ひいては相続税・贈与税の負担を大きく左右する重要な論点です。自社株(取引相場のない株式)の評価を進めていくと、「評価対象の会社が、さらに別の非上場会社=子会社の株式を持っている」というケースに出会うことがあります。持株会社(ホールディングス)を頂点とするグループや、事業を分社化した会社では珍しくありません。本コラムでは、子会社株式の評価で用いる「小会社方式」の考え方と、実務で最も間違いやすい「法人税額等相当額(37%)」の取扱いを、財産評価基本通達に沿ってわかりやすく整理します。
1. まずは取引相場のない株式の評価方法をおさらい
上場していない株式(取引相場のない株式)は市場価格が存在しないため、財産評価基本通達(国税庁)に定められた方法で評価します。評価方法は、その株式を取得する人が「同族株主等(原則的評価方式)」か「それ以外の少数株主(特例的評価方式=配当還元方式)」かでまず分かれ、原則的評価方式では、会社の規模を「大会社・中会社・小会社」の3区分に分類します。
会社規模の区分は、従業員数・総資産価額・取引金額(売上高)という3つの要素をもとに判定します。従業員数が70人以上の会社は業種を問わず大会社に区分され、それ未満の会社は、総資産価額および従業員数による判定と、取引金額による判定のいずれか上位の区分によって、大会社・中会社(大・中・小)・小会社に振り分けられます。
そのうえで、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者を一定割合で組み合わせる併用方式を基本とします。小会社であっても、類似業種比準価額と純資産価額を0.50ずつ組み合わせる併用方式を選択することは可能です。ここで押さえておきたいのは、「小会社=純資産価額方式が基本」という点です。この考え方が、後述する子会社株式の評価にそのまま用いられます。
純資産価額方式は、会社をいったん解散・清算したと仮定し、資産を時価(相続税評価額)で売却して負債を返済したら株主にいくら残るか、という発想で株価を算定する方法です。会社の含み益をストレートに株価へ反映するため、不動産や有価証券などの含み益が大きい会社では、類似業種比準方式よりも評価額が高くなりやすい特徴があります。子会社株式を保有する持株会社は、まさにこのタイプに当たりやすいといえます。
2. なぜ子会社株式で「評価方法」が問題になるのか
親会社(評価会社)を純資産価額方式で評価する場合、その計算は「会社の資産を相続税評価額に置き換え、負債を差し引いて1株あたりの純資産価額を求める」という流れになります。
このとき、親会社の資産のなかに子会社株式が含まれていれば、その子会社株式もまた「相続税評価額」に評価し直さなければなりません。子会社が上場していれば市場価格を使えますが、子会社もまた非上場であれば、子会社株式そのものを財産評価基本通達で評価する必要が出てきます。つまり、親会社の株式を評価するために、その前段としてもう一段階、子会社株式の評価が必要になるわけです。この子会社株式部分の計算ルールを定めているのが、財産評価基本通達186-3です。
こうした場面は、事業承継の現場では決して特殊なものではありません。たとえば、事業会社の上に持株会社を設けてグループを再編したケース、不動産管理部門や新規事業を子会社として切り出したケース、あるいは代々の経営で気づけば関係会社が複数連なっていたケースなど、オーナー経営の会社では自然と生まれてくる構造です。株価対策や後継者への株式移転を検討する前提として、まずはグループ全体の株式評価額を正しく把握しておくことが出発点になります。
3. 子会社株式の評価は「小会社に該当するものとして」行う
評価会社が保有する取引相場のない株式(子会社株式)を評価する際は、その子会社を「小会社に該当するものとして」評価するのが原則です。つまり、子会社の実際の規模が中会社や大会社に当たるとしても、親会社の純資産価額を計算する目的では、細かな会社規模の区分判定を行わずに、小会社方式(純資産価額方式)で評価します。
これは、グループ内のすべての子会社について会社規模区分を一つひとつ判定するのは実務上煩雑であり、また純資産価額方式のほうが会社の実態(保有資産の価値)を素直に反映しやすい、という考え方によるものです。なお、小会社として評価するため、純資産価額方式のほか、類似業種比準価額と純資産価額を0.50ずつ用いる併用方式を選択することも認められます。ただし、次に述べる法人税額等相当額の取扱いには、通常の小会社評価とは異なる特有の注意が必要です。
4. 最大の注意点:法人税額等相当額(37%)を控除しない
純資産価額方式では通常、資産の相続税評価額と帳簿価額との差額(=含み益、評価差額)に対して、37%の「法人税額等相当額」を控除できます。これは、会社を清算して資産を売却したと仮定した場合にかかる税金を織り込むための調整です。
ところが、子会社株式を評価する場面では、この37%の控除を行いません(財産評価基本通達186-3の注書き)。理由は「二重控除」を避けるためです。子会社の段階で37%を控除し、さらに親会社の段階でも評価差額に37%を控除すると、同じ含み益に対して二重に税負担相当額を差し引くことになってしまいます。
子会社株式(前段で評価する部分)の純資産価額を計算するときは、あえて37%を控除せずに評価します。そのうえで、親会社の段階で改めて評価差額全体に37%を控除する——という整理です。子会社の段階で誤って37%を控除すると、子会社株式の評価額が過少になり、結果として親会社株式の評価額も低く算定され、過少申告につながりかねません。
5. 子会社株式の評価(純資産価額方式)の流れ
子会社株式を純資産価額方式で評価するときの手順を、あらためて整理しておきます。基本的な流れは、単独の会社を評価する場合と同じで、最後の法人税額等相当額の扱いだけが異なります。
- ステップ1/子会社の資産・負債を、課税時期の相続税評価額に置き換えて集計する(土地は路線価、上場株式は市場価格など)。
- ステップ2/「相続税評価額による純資産(資産−負債)」と「帳簿価額による純資産」の差額を求め、これを評価差額(含み益)とする。
- ステップ3/通常は評価差額に37%を乗じた法人税額等相当額を控除するが、子会社株式としての評価ではこの控除を行わない。
- ステップ4/控除後(子会社株式では控除前)の純資産価額を発行済株式数で割り、1株あたりの評価額を算定する。
このステップ3こそが、単独評価と子会社株式評価の分岐点です。判断を誤りやすいのは、市販の評価ソフトや自社株評価シートに子会社株式のデータを入力する際、控除の設定を「あり」のままにしてしまうケースです。子会社株式の評価部分は必ず「控除なし」で計算する、と意識しておくと安全です。
6. 具体的な計算イメージ
簡単な数値でイメージをつかんでみましょう。ある子会社の資産・負債が次のとおりだとします。
- 資産の相続税評価額:3億円 / 帳簿価額:2億円
- 負債:1億円
- 発行済株式数:1万株
含み益(評価差額)は、3億円 − 2億円 = 1億円です。通常の純資産価額方式であれば「1億円 × 37% = 3,700万円」を控除しますが、子会社株式の評価ではこれを控除しません。
| 項目 | 通常の小会社評価 | 子会社株式としての評価 |
|---|---|---|
| 純資産(3億円−1億円) | 2億円 | 2億円 |
| 法人税額等相当額 | △3,700万円 | 控除しない |
| 評価後の純資産 | 1億6,300万円 | 2億円 |
| 1株あたり評価額 | 16,300円 | 20,000円 |
このように、同じ子会社株式でも計算の前提によって評価額が変わります。親会社の純資産価額を求める目的では、右側の「20,000円 × 保有株数」を親会社の資産に計上することになります。単独評価の感覚のまま3,700万円を控除してしまうと、評価額を取り違えてしまう点に注意が必要です。
7. あわせて確認したい関連論点
子会社株式を多く保有する会社では、親会社が「株式等保有特定会社」に該当しないかも確認が必要です。総資産に占める株式等の割合が50%以上になると、原則として純資産価額方式(またはS1+S2方式)で評価する特定の評価会社となり、類似業種比準方式による評価額の引下げ効果が使えなくなります。持株会社化や組織再編を検討する際は、この判定にも注意しましょう。
また、子会社が複数ある場合は各社ごとに、その下に孫会社があればさらにその先まで、同じ考え方で段階的に評価を積み上げていきます。株式だけでなく、持分会社(合同会社等)への出資や、信用金庫等への出資金についても、それぞれの通達に沿った評価が必要です。グループ構造が複雑になるほど、評価の抜け漏れや二重控除が起こりやすくなります。
さらに、株式を取得した株主が同族株主グループのうち議決権割合の少ない立場にあるなど、一定の要件に当てはまる場合には、純資産価額に80%を乗じて評価する取扱い(20%の評価減)が適用されることもあります。ただし、この80%評価減は、子会社株式を親会社の資産として評価する段階ではなく、最終的な相続・贈与の対象となる株式そのものの評価段階で検討する論点です。どの段階でどの調整を行うのかを混同すると、評価額を誤りやすいため、全体像を整理したうえで一つずつ丁寧に計算を進めることが大切です。
8. よくあるご質問
Q. 子会社が大会社の規模でも、小会社方式で評価するのですか?
はい。親会社(評価会社)の純資産価額を計算する目的で子会社株式を評価する場合は、子会社の実際の規模にかかわらず「小会社に該当するものとして」純資産価額方式で評価します。子会社ごとに会社規模区分を判定し直す必要はありません。一方で、その子会社株式そのものを相続・贈与する(=子会社が最終的な評価対象になる)場面では、通常どおり子会社自身の会社規模区分に基づいて評価します。同じ子会社株式でも「何のために評価するのか」によって扱いが変わる点に注意してください。
Q. なぜ子会社の段階で法人税額等相当額を控除しないと有利・不利が生じるのですか?
控除してしまうと、子会社株式の評価額が本来より低くなり、それを取り込む親会社株式の評価額も低く出ます。一見すると納税者に有利に思えますが、通達の定めに反する計算であり、税務調査で否認されれば追徴課税や過少申告加算税の対象になり得ます。逆に、二重に控除せず正しく計算することで、後日の指摘リスクを避けられます。評価は「低ければよい」のではなく、「通達どおり正確であること」が何より重要です。
まとめ
子会社株式の評価では、(1)子会社を「小会社に該当するものとして」純資産価額方式で評価すること、(2)その純資産価額の計算では法人税額等相当額(37%)を控除しないこと、この2点が実務上の最重要ポイントです。評価方法の選択や区分判定、控除の要否を誤ると、相続税・贈与税の負担額に直結します。
持株会社やグループ会社の自社株評価、そして円滑な事業承継対策をご検討の際は、株式評価の実務に精通した専門家へ早めにご相談いただくことをおすすめします。
グループ会社・持株会社の自社株評価、事業承継のご相談は
三瀬国際税務会計事務所
※本コラムは2026年8月時点の財産評価基本通達等に基づく一般的な解説です。税制改正や個別の事実関係により取扱いが異なる場合があります。実際の申告・対策にあたっては、税理士等の専門家に個別にご相談ください。



