2026.08.26 ブログ
特定事業用宅地等とは?400㎡・80%減額の要件と3年しばりを税理士が解説
個人事業主の方が亡くなったとき、店舗や工場、事務所といった事業に使っていた土地に本来どおりの相続税がかかると、遺族が事業を続けられなくなってしまうおそれがあります。これを防ぐのが小規模宅地等の特例のうちの「特定事業用宅地等」です。最大で400㎡まで評価額を80%減額できる非常に強力な制度ですが、「事業を引き継ぐこと」「持ち続けること」に加え、令和元年度改正で加わった「3年しばり」など、押さえるべき要件が複数あります。本コラムでは、租税特別措置法および国税庁の取扱いに沿って、特定事業用宅地等を細部まで整理します。
1. 特定事業用宅地等とは
特定事業用宅地等とは、被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族が、事業(不動産貸付業などの貸付事業を除く)の用に供していた宅地等をいいます。一定の要件を満たすと、その宅地の評価額を大幅に減額できます(租税特別措置法第69条の4)。
そもそも小規模宅地等の特例は、遺族の生活基盤や事業の継続を守るために設けられた制度で、対象となる宅地は利用状況によって次の4つに区分されます。制度の全体像や最新の取扱いは、国税庁のタックスアンサー「No.4124 小規模宅地等の特例」でも確認できます。
| 区分 | 主な内容 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 被相続人等の自宅の敷地 | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等 | 被相続人等の事業(貸付以外)用の敷地 | 400㎡ | 80% |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 一定の同族会社の事業用の敷地 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | アパート・駐車場など貸付用の敷地 | 200㎡ | 50% |
本コラムのテーマである特定事業用宅地等は、限度面積が400㎡と居住用(330㎡)より広く、減額割合も80%と大きいため、個人事業を営む方の相続では最重要の論点となります。
2. 特定事業用宅地等の減額効果
特定事業用宅地等は、400㎡までの部分について評価額の80%を減額できます。課税対象となるのは残り20%だけです。
たとえば事業所の敷地(350㎡・評価額8,000万円)に特例を適用できる場合、
8,000万円 ×(1 − 80%)= 1,600万円 まで評価が下がります。
差額6,400万円が課税価格から圧縮されるため、相続税の軽減効果は極めて大きくなります。
面積が400㎡を超える場合は、400㎡までの部分に80%減額が適用され、超えた部分は通常評価となります。宅地の評価額そのものは路線価等に基づいて算定します(「令和8年度路線価が公表」もご参照ください)。
3. 対象となる「事業」とは
ここでいう事業とは、物品販売業・製造業・飲食業・サービス業・農業など、いわゆる自ら営む事業全般を指します。個人の町工場、商店、クリニックや歯科医院、理美容室、士業事務所などの敷地が典型例です。所得税の確定申告で事業所得(または一定の農業所得)として申告している事業であれば、幅広く対象になり得ます。
判定にあたって重要なのは、その土地が相続開始の直前において現に事業の用に供されていたかという点です。名目上は事業用でも、実際には長期間使われず遊休状態になっていた土地は、事業用と認められないことがあります。帳簿上の区分だけでなく、利用の実態が問われます。
注意すべきは、不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業といった「貸付事業」は、特定事業用宅地等には含まれないことです。これらは別区分の「貸付事業用宅地等」(200㎡・50%減額)として扱われ、減額割合も限度面積も小さくなります。同じ「事業」でも、貸付か否かで取扱いが大きく変わる点は必ず押さえてください。
4. 「被相続人の事業用」と「生計一親族の事業用」
特定事業用宅地等は、誰の事業に使われていたかによって、次の2つの類型に分かれます。
(1) 被相続人が事業を営んでいた宅地
被相続人自身が営んでいた事業の敷地です。もっとも典型的なケースで、その事業を引き継ぐ親族が取得した場合に対象となります。
(2) 生計を一にする親族が事業を営んでいた宅地
被相続人が所有する土地の上で、被相続人と生計を一にする親族が事業を営んでいたケースです。たとえば、父名義の土地で同一生計の子が商店を営んでいたような場合が該当します。
5. 取得者ごとの要件
特定事業用宅地等では、居住用と違って「事業を続けること」が要件の中心になります。配偶者だからといって要件が免除されることはなく、誰が取得する場合でも事業と保有の継続が求められる点が大きな特徴です。
| 類型 | 事業に関する要件 | 保有継続要件 |
|---|---|---|
| 被相続人の 事業用宅地 |
その事業を申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで営んでいること(事業承継要件) | 申告期限まで 保有 |
| 生計一親族の 事業用宅地 |
相続開始の直前から申告期限まで、その宅地で事業を営んでいること(事業継続要件) | 申告期限まで 保有 |
いずれの類型でも、取得した親族が相続税の申告期限(原則として相続開始を知った日の翌日から10か月)まで事業を営み、かつその宅地を保有し続けることが求められます。申告期限前に事業をやめたり宅地を売却したりすると、特例は適用できません。申告期限の考え方は「相続税の申告期限である被相続人の死亡を知った日の翌日から10月以内とは!?」でも解説しています。
6. 令和元年改正「3年しばり」に注意
特定事業用宅地等でもっとも実務上間違えやすいのが、令和元年度税制改正で導入された「3年しばり」です。
これは、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は、原則として特定事業用宅地等の対象から除外するというルールです。相続の直前に、余っていた土地に急いで事業を始めて評価を下げる、といった駆け込み的な節税を防ぐために設けられました。
ただし、3年以内に事業を始めた宅地でも、その事業に使われている一定の減価償却資産(建物・機械装置・器具備品など)の価額が、その宅地の相続開始時の価額の15%以上であれば、「一定規模以上の事業」として除外の対象外となり、特例を適用できます。単なる土地の囲い込みではなく、相応の設備投資を伴う実態のある事業であれば救済される、という趣旨です。
なお、相続開始の3年より前から営んでいた事業の宅地であれば、この3年しばりの影響は受けません。長く続けてきた事業用地は従来どおり対象となります。
7. 特定同族会社事業用宅地等との違い
「事業用」といっても、事業を個人で営んでいたのか、同族会社(法人)で営んでいたのかで区分が変わります。被相続人等が発行済株式の50%超を保有する同族会社が、その土地の上で事業(貸付以外)を営んでいた場合は、特定事業用宅地等ではなく「特定同族会社事業用宅地等」(400㎡・80%)に該当します。この場合、取得する親族が申告期限においてその会社の役員であることなどが要件となります。個人事業か法人かで適用条文と要件が異なるため、事業形態の確認が出発点になります。
8. 適用手続きと限度面積の併用
(1) 相続税の申告が必須
この特例は、相続税の申告書を提出して初めて適用されます。適用の結果、納付税額がゼロになる場合でも、申告書に特例を受ける旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付して申告しなければなりません。「税額がゼロだから申告不要」と考えて申告を失念すると、特例そのものが受けられなくなります。
(2) 遺産分割が済んでいること
原則として、申告期限までにその宅地が分割されていることが必要です。間に合わない場合でも「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、その期間内に分割が確定した時点で更正の請求により適用できます。
(3) 居住用との完全併用(最大730㎡)
特定事業用宅地等(400㎡)と特定居住用宅地等(330㎡)は、原則としてそれぞれの限度まで完全に併用でき、あわせて最大730㎡まで80%減額を受けられます。自宅と店舗の両方をお持ちの方にとっては、非常に大きな節税につながります。一方、貸付事業用宅地等(200㎡・50%)を併用する場合は、区分ごとの算式による面積調整が必要となり、単純な合算はできません。
複数の宅地があり、限度面積の枠を超えてしまう場合は、「1㎡あたりの減額金額」が大きい宅地から優先して枠を充てるのが基本です。たとえば路線価の高い都心の事業用地と、路線価の低い郊外の貸付地では、同じ面積でも減額効果が大きく異なります。減額割合(80%か50%か)だけでなく、単価と面積を掛け合わせた実際の減額額で比較することが、有利選択のポイントです。
どの宅地に優先して適用するかは、この㎡あたりの減額効果を比較して有利判定を行います。選択の仕方ひとつで税額が変わるため、複数の宅地がある場合はとくに慎重な検討が必要です。
9. 誤りやすいポイントとよくあるご質問
Q1. 相続後すぐに廃業・売却してもよい?
いいえ。特定事業用宅地等は、取得者の別を問わず申告期限まで事業を営み、かつ宅地を保有していることが要件です。申告期限前に廃業したり売却したりすると適用できません。事業の継続や資産の整理は、申告期限を過ぎてから検討する必要があります。
Q2. 相続直前に始めた事業でも使える?
原則として使えません。「3年しばり」により、相続開始前3年以内に新たに事業供用された宅地は対象外です。ただし、設備等の価額が宅地価額の15%以上となる一定規模以上の事業であれば、例外として適用できます。
Q3. アパート経営の土地は特定事業用になる?
なりません。不動産貸付業は「貸付事業用宅地等」(200㎡・50%)の区分です。同じ土地活用でも、貸付か自ら営む事業かで減額割合・限度面積が大きく異なるため、区分の判定が重要です。
Q4. 配偶者が取得すれば要件は緩くなる?
居住用宅地とは異なり、事業用宅地では配偶者が取得しても要件は緩和されません。特定居住用宅地等では配偶者に事業・保有の継続要件がありませんが、特定事業用宅地等では取得者が誰であっても、申告期限までの事業の継続と宅地の保有が必要です。この違いは混同しやすいので注意してください。
Q5. 事業を法人化していた場合は?
被相続人が同族会社を通じて事業を営んでいた場合は、特定事業用宅地等ではなく「特定同族会社事業用宅地等」の区分で判定します(第7章参照)。この場合、取得者が申告期限においてその会社の役員であることなどが要件に加わります。生前に個人事業を法人成りしているケースでは、どちらの区分に当たるかの確認が欠かせません。
10. まとめ
特定事業用宅地等の特例は、400㎡までの事業用地について評価額を80%減額できる、個人事業の承継に欠かせない制度です。ポイントは、「事業を引き継いで続けること」「宅地を申告期限まで保有すること」、そして令和元年改正の「3年しばり(15%基準)」を正しく理解することです。
さらに、貸付事業との区分、個人か同族会社かの判定、居住用との併用による限度面積の最適化など、検討すべき論点は多岐にわたります。事業用地をお持ちの方は、生前の段階から計画的に準備しておくことで、いざというときの相続税負担を大きく軽減できます。判断に迷う場合は、早めに専門家へご相談ください。
特定事業用宅地等の適用可否は、事業の継続状況・事業開始時期・設備投資の規模・事業形態など、細かな事実認定の積み重ねです。
事業用地の相続や生前対策でお悩みの方は、三瀬国際税務会計事務所までお気軽にご相談ください。事業承継の段階からサポートいたします。
※本コラムは令和8年(2026年)時点の税制に基づく一般的な解説です。個別の適用可否は事実関係により異なりますので、実際の判断にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。



