2026.09.07 ブログ
保管証書遺言(デジタル遺言)とは|2026年新設の制度を税理士が解説

保管証書遺言とは、パソコンやスマートフォンで作成した遺言を法務局に預けられる、2026年6月の改正民法で新しく設けられた制度です。いわゆる「デジタル遺言」とも呼ばれており、これまで手書きが原則だった遺言のあり方を大きく変えるものとして注目を集めています。そこで本コラムでは、相続を専門とする税理士の視点から、保管証書遺言とはどのような制度なのか、そしていつから使えるのか、さらに既存の遺言方式とどう違うのかを、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。
まず結論からお伝えすると、保管証書遺言はすでに法律としては成立していますが、施行日はまだ決まっておらず、2026年時点では利用できません。とはいえ、制度の全体像を今のうちに理解しておくことは、将来の遺言選びや相続対策を考えるうえで大いに役立ちます。以下では、保管証書遺言の仕組みから注意点までを順番に見ていきましょう。
保管証書遺言(デジタル遺言)とは
保管証書遺言とは、パソコンやスマートフォンなどの電子的な手段で作成した遺言を、法務局(遺言書保管官)が本人の意思や内容を確認したうえで保管する、まったく新しい遺言の方式です。2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)によって創設されました。
なお、報道などでは「デジタル遺言」という呼び名が広く使われていますが、これは通称であり、改正後の民法における正式な名称は「保管証書遺言」です。従来から民法に定められている自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言という3つの普通方式の遺言に、4つ目の選択肢として新たに加わることになります。
手書き不要という大きな特徴
そして、保管証書遺言の最大の特徴は、遺言の本文を必ずしも手書きする必要がなくなる点です。これまでの自筆証書遺言では、財産目録を除く全文・日付・氏名を自分の手で書くことが有効性の条件でした。これに対して保管証書遺言では、電子データで作成した内容を法務局に持ち込み、遺言書保管官の面前でその全文を口頭で読み上げる(口述する)などの手続きを経ることで、本人が真意に基づいて作成したものであることを確認する仕組みが組み込まれています。つまり、手書きの負担を軽くしつつ、本人性と真意の担保という遺言に不可欠な要素を制度として守ろうとしている点こそが、この制度の核心といえるでしょう。
保管証書遺言のポイント
- パソコン・スマートフォン等で作成した電子データを遺言にできる新方式
- 正式名称は「保管証書遺言」(通称:デジタル遺言)
- 自筆証書・公正証書・秘密証書に続く4つ目の普通方式の遺言
- 法務局(遺言書保管官)が本人確認・内容確認を行ったうえで保管する
- 2026年6月に法律は成立・公布済み。ただし施行日は未定で、まだ利用できない
なぜ新しい制度が生まれたのか
デジタル化の流れと遺言の使いやすさ
今回の改正の背景には、社会全体でデジタル化が進むなか、遺言についても国民がより手軽に、それでいて信頼性の高い形で作成できるようにしたいという狙いがあります。法務省は、この改正の趣旨を、デジタル技術を活用して従来の自筆証書遺言と同程度の信頼性を確保しながら、簡便に遺言を作成できるようにするものだと説明しています。つまり、単なる電子化ではなく、本人性や真意の担保という遺言の本質を保ちながら利便性を高める点に、この改正のねらいがあるといえます。
従来の遺言が抱えていた課題
そもそも従来の遺言には、それぞれに使いにくさがありました。たとえば、自筆証書遺言は費用がかからず手軽な一方、全文を手書きする負担が大きく、加齢や病気で長文を書くことが難しい方には高いハードルとなっていました。しかも、形式面の不備で無効になったり、自宅で保管するうちに紛失・改ざんされたりするリスクも指摘されてきました。一方の公正証書遺言は内容面の安全性が高い反面、公証人への手数料や証人の手配など、相応の手間と費用がかかります。
課題を解決する第4の選択肢として
そこで、こうした課題を踏まえ、「手書きの負担をなくす」「電子データで作成できる」「国の機関が保管して紛失・改ざんを防ぐ」という要素を組み合わせた新しい選択肢として、保管証書遺言が設けられました。さらに今回の改正では、自筆証書遺言などの押印要件の廃止(署名=自書は引き続き必要)や、既存の自筆証書遺言書保管制度の手続きの一部をオンライン化することなども盛り込まれています。このように、遺言全体を「より使いやすく」する方向での見直しが行われているのです。
保管証書遺言の作成から保管までの流れ
現時点で示されている制度の概要をもとに、保管証書遺言を利用する場合のおおまかな流れを整理すると、次のようになります。なお、細かな運用は今後の政省令や法務局のシステム整備によって定まるため、施行までに内容が変わる可能性がある点にご留意ください。
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遺言をデジタルで作成する
パソコンやスマートフォンなどを使い、遺言の全文を電子データとして作成します。手書きが原則だった従来の方式と異なり、本文をキーボードなどで入力できる点が大きな特徴です。 -
署名(またはこれに代わる措置)を行う
作成した遺言に、本人であることを示すための署名など、法律で定められた措置を行います。誰が作成したものかを明確にするための重要な手続きです。 -
法務局へ保管を申請する
作成した遺言について、法務局(遺言書保管所)に保管の申請を行います。今回の改正では、こうした手続きの一部をオンラインで行えるようにする方向での見直しも進められています。 -
遺言書保管官の前で全文を口述する
遺言者本人が、遺言書保管官の面前で遺言の全文を口頭で読み上げます。これにより、本人が内容を理解し、真意に基づいて作成したことを確認します。この手続きは、対面のほかWeb会議の形で行うことも想定されています。 -
法務局が保管する
本人確認と内容確認を終えた遺言は、法務局が責任を持って保管します。自宅保管に伴う紛失や改ざんのリスクを避けられるうえ、相続開始後には家庭裁判所の検認が不要になる点も大きな利点です。
口述手続きは必須です
「パソコンやスマホで作って保存すれば、それだけで有効になる」という単純な仕組みではありません。遺言者ご本人が保管官の面前で全文を口述するなど、本人性と真意を確認する手続きが制度に組み込まれている点が、保管証書遺言の重要な特徴です。
既存の3つの遺言方式との違い
保管証書遺言の位置づけを理解するために、従来の3つの普通方式の遺言と比較してみましょう。それぞれの特徴を大まかに整理すると、次の表のようになります。
| 方式 | 本文の作成方法 | 保管場所 | 検認の要否 | 主な特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 手書き(財産目録はPC作成可) | 自宅または法務局 | 必要(法務局保管なら不要) | 手軽で費用がかからないが、形式不備や紛失のリスク |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成 | 公証役場 | 不要 | 内容面の安全性が高いが、手数料と証人が必要 |
| 秘密証書遺言 | 本文は自由(署名は自書) | 自分で保管 | 必要 | 内容を秘密にできるが、利用実績は少ない |
| 保管証書遺言 (新設) |
電子データ(PC・スマホ等) | 法務局 | 不要 | 手書き不要。保管官の面前で口述して本人確認 |
こうして比べると、保管証書遺言は「自筆証書遺言の手軽さ」と「公正証書遺言に近い保管の安心感」の中間に位置する、新しいバランスの選択肢だと考えることができます。手書きの負担がなく、法務局が保管し、検認も不要になる一方で、公正証書遺言のように公証人が内容の適法性まで踏み込んで確認するわけではないため、内容面の妥当性は基本的に遺言者自身が担保する必要があります。この点は、後述する注意点とも深く関わってきます。
保管証書遺言のメリット
1. 手書きの負担がなくなる
最も分かりやすいメリットは、遺言の本文を手書きしなくてよくなることです。財産の種類が多く記載が長くなる場合や、加齢・病気などで長文を書くことが難しい方にとって、キーボードなどで入力できることの意味は小さくありません。書き損じによる書き直しの手間も減らせます。
2. 紛失・改ざんのリスクを避けられる
自宅で遺言を保管していると、いざというときに見つけてもらえなかったり、一部の相続人によって隠されたり書き換えられたりするおそれがあります。保管証書遺言では国の機関である法務局が保管を担うため、こうした「保管」にまつわる不安を解消できます。
3. 家庭裁判所の検認が不要になる
自宅で保管された自筆証書遺言などは、相続開始後に家庭裁判所での検認という手続きが必要になります。検認には一定の時間と手間がかかりますが、法務局が保管する保管証書遺言ではこの検認が不要となり、相続手続きをスムーズに進められます。残されるご家族の負担軽減という点でも大きな利点です。
4. オンライン手続きが想定されている
保管の申請や口述の手続きについて、オンラインやWeb会議での対応が想定されている点も現代的な特徴です。遠方に住んでいる方や、法務局へ足を運ぶことが難しい方にとって、利便性の向上が期待されます(具体的な運用は今後定められます)。
こんな方に向いている可能性があります
- デジタル機器の操作に慣れており、手書きの負担を減らしたい方
- 遺言を確実に保管し、紛失や改ざんの不安をなくしたい方
- 相続開始後の検認手続きで家族に負担をかけたくない方
- 公正証書遺言ほどの費用や手間はかけたくないが、自宅保管には不安がある方
利用前に知っておきたい注意点
まだ利用できません(施行日は未定)
最も重要な注意点は、この制度は法律が成立・公布されただけで、まだ実際には利用できないという点です。保管証書遺言に関する部分の施行日は、公布日(2026年6月24日)から3年を超えない範囲で、今後政令によって定められることになっています。つまり、遅くとも2029年6月までには始まる見込みですが、2026年時点では具体的な施行日は決まっていません。今すぐ遺言を作成したい場合は、現行の自筆証書遺言や公正証書遺言で対応することになります。
内容の有効性まで保証されるわけではない
法務局が保管し、本人確認と内容確認の手続きを行うとはいえ、これは遺言の「本人性」や「真意」を確認するための仕組みが中心です。遺言に書かれた内容そのものが法的に有効か、遺留分などの権利関係と矛盾していないかといった点まで、公証人が関与する公正証書遺言のように踏み込んで確認されるとは限りません。内容面の安全性を重視するのであれば、依然として公正証書遺言が有力な選択肢となります。
「争いがなくなる」わけではない
新しい制度が導入されても、相続をめぐる争いが完全になくなるわけではありません。たとえば、遺言者に判断能力が十分にあったか、特定の相続人が不当に影響を与えていなかったかといった点は、形を変えて争点になり得ます。オンラインでの手続きが可能とされても、不当な干渉のおそれがある場合などには、対面での出頭が求められる場面も想定されています。
押印要件の廃止にも注意
今回の改正では、自筆証書遺言などの押印要件が廃止されます(署名=自書は引き続き必要)。ただし、この押印廃止の施行も公布日から1年以内とされており、施行日より前に作成する遺言には、これまでどおり押印が必要です。「もう押印しなくてよい」と早合点しないようご注意ください。
相続税・相続手続きの観点から見たポイント
遺言は、相続税や相続手続きとも密接に関わります。相続を専門とする税理士の立場から、保管証書遺言を考えるうえで押さえておきたい視点を整理します。
遺言の「形式」と「内容」は別物
保管証書遺言はあくまで遺言を残すための「方式(形式)」のひとつです。どの方式で作るかにかかわらず、誰に何をどのように遺すかという「内容」の設計こそが、相続税額や納税資金、相続人間の公平性に大きく影響します。たとえば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった相続税の制度を踏まえて財産の分け方を検討しておくことで、結果としてご家族全体の税負担を抑えられる場合があります。方式が新しくなっても、この「内容の設計」の重要性は変わりません。
遺留分への配慮は引き続き必要
どの方式の遺言であっても、一定の相続人に保障された遺留分を無視した内容にしてしまうと、後々の紛争のもとになります。手軽に作成できる方式ほど、内容面のチェックがおろそかになりがちです。遺言の作成にあたっては、税務・法務の両面から内容を確認しておくことをおすすめします。
納税資金の確保もあわせて検討を
財産の大半が不動産や自社株といった分けにくい資産で構成されている場合、相続税の納税資金をどう確保するかが課題になります。遺言で財産の行き先を決めるのと同時に、納税資金の準備や分割方法についても検討しておくことで、円滑な相続につながります。
施行までの間、いま準備できること
保管証書遺言はまだ利用できませんが、「制度が始まったら使いたい」とお考えの方も、施行を待つ間にできる準備があります。
- 財産の棚卸しをする:不動産・預貯金・有価証券・保険・借入金などを一覧にして、ご自身の財産の全体像を把握しておきましょう。どの方式の遺言を選ぶにしても、これが出発点になります。
- 誰に何を遺したいかを整理する:ご家族の状況を踏まえ、財産の分け方の方針を考えておきます。相続税や遺留分の観点も含めて、早めに検討しておくと安心です。
- 現行の遺言方式で先に備える:すぐに遺言を残しておきたい場合は、現行の自筆証書遺言(法務局保管制度も利用可)や公正証書遺言で対応できます。施行後に保管証書遺言へ切り替えることも可能です。
- 専門家に相談する:内容面の妥当性や税務の影響については、早い段階で専門家に相談しておくことで、後々の手戻りや紛争を防ぎやすくなります。
よくあるご質問(FAQ)
まとめ
保管証書遺言(デジタル遺言)は、パソコンやスマートフォンで作成した遺言を法務局が保管する、2026年に創設された新しい遺言の方式です。手書きの負担がなくなり、紛失・改ざんのリスクを避けられ、家庭裁判所の検認も不要になるなど、多くのメリットがあります。一方で、施行日はまだ決まっておらず現時点では利用できないこと、内容の有効性まで保証されるわけではないことなど、押さえておくべき注意点もあります。
もっとも、どの方式の遺言を選ぶにしても、本当に大切なのは「誰に何をどう遺すか」という内容の設計です。とりわけ相続税や遺留分、納税資金といった要素を踏まえて検討することで、ご自身の想いを実現しつつ、残されるご家族の負担を軽くすることができます。保管証書遺言をはじめとする制度の動向を見据えながら、まずは早めに準備を進めておくことをおすすめします。
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※本コラムは2026年時点で公表されている情報にもとづき、一般的な解説を目的として作成したものです。保管証書遺言に関する制度の詳細は、今後の政省令の整備や法務局の運用により定まるため、実際の取扱いが変更される場合があります。個別の事情に応じた判断については、税理士等の専門家にご相談ください。


