2026.08.31 ブログ
非上場株式(自社株)の評価が抜本改正へ|残余利益方式への一本化と会社規模区分の廃止を税理士が解説
2026年8月20日、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回会合を開催し、非上場株式の評価見直しに向けた方向性を明らかにしました。いわゆる自社株(非上場株式)の相続税・贈与税評価について、これまでの評価方法を根本から改める内容です。会社の規模区分を廃止し、長年用いられてきた「類似業種比準方式」に代えて「残余利益方式」を新たな柱に据えるもので、実現すれば数十年ぶりの大改正となります。本コラムでは、公表・報道された非上場株式の評価見直し案のポイントを、事業承継や相続対策への影響とあわせて税理士がわかりやすく整理します。
What is the valuation of unlisted shares?そもそも「取引相場のない株式」の評価とは
上場していない中小企業の株式は、市場での売買価格がありません。そのため、オーナー経営者が保有する自社株を相続・贈与する際には、財産評価基本通達というルールに従って評価額を計算します。これが「取引相場のない株式の評価」で、事業承継における相続税・贈与税の負担を左右する、極めて重要な論点です。
現行制度では、まず会社を総資産・従業員数・取引金額に応じて大会社・中会社・小会社に区分します。そのうえで、大会社は上場企業と業種などを比べる「類似業種比準方式」、小会社は会社の純資産をもとにする「純資産価額方式」、中会社は両者を組み合わせる「併用方式」で評価するのが原則です。また、経営に関与しない少数株主が取得する株式などは、例外的に配当をもとにした「配当還元方式」で評価します。基本的な考え方は、国税庁のタックスアンサー「No.4638 取引相場のない株式の評価」でも確認できます。
Overview of the reform非上場株式の評価見直しの全体像 ― 4つの柱
今回の非上場株式の評価見直し案は、この長年の枠組みを大きく組み替えるものです。国税庁が示した方向性は、おおむね次の4つに整理できます。
- 会社の規模区分を廃止し、規模にかかわらず単一の評価方式に一本化する
- 株式の評価は「1株あたりの価格」ではなく会社全体の価値(企業価値総額)を前提とする
- 原則的な評価方式として、収益力を重視するインカムアプローチ(残余利益方式)を導入する
- 純資産価額方式・配当還元方式の適用対象や算式を見直す
背景には、会社規模によって評価方式が異なることで生じる不公平や、評価方式の違いを利用して意図的に評価額を圧縮するスキームへの問題意識があります。そこで、規模の大小に左右されない共通のものさしをつくろう、という発想です。
Abolishing size-based classification① 会社規模による区分を廃止し、評価方式を一本化
最大の変更点は、大会社・中会社・小会社という規模区分そのものを廃止するという点です。これまでは同じ会社でも、区分が変わると評価方式が変わり、評価額が大きく動くことがありました。見直し案では、規模を問わず一つの評価方式を適用することで、こうした区分間の不均衡を解消しようとしています。
あわせて示されたのが、評価の考え方を「時価」から「簿価」ベースへ改めるという方針です。会社を清算して売却することを前提とした時価ではなく、事業を継続していく前提で帳簿上の純資産(簿価純資産)を用いる、という整理です。事業に使う土地なども評価時点の時価ではなく継続使用を前提とした帳簿価額で捉えるため、毎回時価に洗い替える手間が減り、評価事務の簡素化にもつながると説明されています。
Introducing the residual income method② 類似業種比準方式を廃止し「残余利益方式」へ
今回の目玉が、長年の中核だった類似業種比準方式を廃止し、代わりに残余利益方式を原則的な評価方式に据えるという点です。類似業種比準方式は、理論的な根拠や実証的な裏付けが乏しいことなどから、存置は困難との見方が示されました。
残余利益方式の基本的な考え方
残余利益方式は、会社の価値を「①会社が保有する資産(簿価純資産)」と「②会社の収益を稼ぐ力(収益獲得能力)」の二つの要素から捉える方法です。ここでいう「残余利益」とは、株主が通常期待する利益を上回って稼いだ超過収益を指します。会社が期待以上に稼ぐ力を持っていれば、その分だけ簿価純資産に上乗せして評価するイメージです。
※ 残余利益 = 各期の利益 −(前期の簿価純資産 × 株主が通常期待する収益率〔還元率〕)
収益力を反映する期間としては5年分を用いることが想定されており、株主が期待する収益率(還元率)は上場株式を基準に算定される見込みです。さらに時価としての適正性を確保するため「しんしゃく率」を乗じて調整することも検討されています。計算に必要となるのは、基本的に直前期末の貸借対照表と過去数年分の損益計算書だけで足りるとされ、複雑な業種目判定などが不要になる点も特徴です。
イメージをつかむために、ごく単純化した例で考えてみましょう。簿価純資産が1億円の会社があり、株主が期待する利益の水準が年500万円だとします。この会社が実際に毎年700万円の利益を上げているなら、期待を上回る差額の200万円が「残余利益(超過収益)」です。残余利益方式では、この上乗せ分を数年分だけ簿価純資産に加えて評価するため、評価額は1億円を上回ります。逆に利益が期待水準の500万円に届かなければ、上乗せ分はマイナスとなり、評価額は簿価純資産を下回っていくことになります。稼ぐ力の差が、そのまま評価額の差として表れる仕組みです。
赤字・低収益の会社は簿価純資産以下に
重要なのは、稼ぐ力が乏しい会社の扱いです。赤字または低収益の会社は、超過収益がマイナスとして働くため、簿価純資産の額を下回る評価となる仕組みが想定されています。収益力を除いた株式評価額は、簿価純資産価額以下で算定されるという整理で、事業用資産に対して一定の評価減の効果が生じる点は、これまでにない考え方です。
Net asset value & dividend method③ 特定の評価会社・配当還元方式の見直し
純資産価額方式は、原則的な評価方式から外れ、あくまで「特定の評価会社」に適用する評価方式として位置づけ直される見込みです。残余利益方式よりも純資産価額方式で評価するほうが適切な時価に近い会社などが、これに該当すると整理されています。
類似業種比準方式の廃止に伴い、特定の評価会社の種類も再整理されます。報道された見直し案では、「比準要素数1の会社」や「3要素すべてが0の会社」がなくなり、「株式等保有特定会社」「土地保有特定会社」は資産管理会社として位置づけられます。また「開業後3年未満の会社」は「開業後5年未満の会社」に、さらに「組織再編成直後の会社」という種類を設けることも検討されています。
少数株主向けの配当還元方式は、特別な例外措置として存置しつつも、適用範囲を見直す方針です。適用対象を現在の「同族株主等以外の株主」から「特定の少数株主が取得した株式」へと絞り込み、算式についても見直す案が示されています。
Who pays more, who pays less?評価額はどう変わる? ― 増える会社・減る会社
気になるのは、実際に評価額が上がるのか下がるのかという点でしょう。結論からいえば、会社によって方向は異なります。見直し案の考え方を単純化すると、次のような傾向が読み取れます。
| 会社のタイプ | 現行での主な評価方式 | 見直し後の傾向 |
|---|---|---|
| 小規模・低収益の会社 (従来の小会社など) |
純資産価額方式 | 簿価純資産や利益によるが、評価額が下がるケースも見込まれる |
| 高収益の会社 | ― | 超過収益が大きいほど、簿価純資産への上乗せが大きくなる |
| 大規模な会社 (従来の大会社など) |
類似業種比準方式 | 簿価純資産や利益によるが、評価額が上がるケースもありうる |
参考として有識者会議では、利益も配当もない会社(残余利益がゼロの会社)を簿価純資産100と置いた場合の試算イメージも示されています。株主が期待する還元率が2%なら約91、5%なら約78、10%なら約62と、還元率が高いほど簿価純資産を下回る評価になるという考え方です。つまり、収益力を織り込んだ結果として簿価純資産以下になる局面があるということです。従来「純資産価額=評価の下限」という感覚を持っていた方にとっては、発想の転換が必要になりそうです。
Countering valuation-compression schemes評価額圧縮スキームへの対応強化
今回の見直しには、行き過ぎた節税スキームへの対応という狙いもあります。示された対応の方向性を整理すると、次のとおりです。
- 会社規模の操作による圧縮 → 規模にかかわらず単一の評価方式とすることで対応
- 役員報酬等による一時的な利益操作 → 非経常的な損益を除外して評価し、恣意性を排除
- グループ法人税制を使った資産移転 → 完全支配関係にあるグループはグループ全体として評価
- 株主構成の操作による配当還元方式の濫用 → 適用対象となる株主の範囲を整理し、固定価格株式の取扱いも見直し
いずれも、意図的に評価額を引き下げる余地を狭める方向であり、これまで一部で行われてきた対策が通用しにくくなる可能性があります。自社株対策を検討している場合は、前提が変わりうる点に注意が必要です。
Impact on business succession事業承継・相続対策への影響と今後の見通し
非上場株式の評価見直しは、事業承継そのものの設計に直結します。評価方式が残余利益方式に一本化されれば、これまで「規模を調整して評価を下げる」「純資産方式と比準方式の差を使う」といった発想は成り立たなくなり、代わりに収益力そのものが評価額を大きく左右するようになります。高収益企業ほど早めの対策が重要になる一方、低収益の会社では従来より評価が下がり、承継しやすくなる可能性もあります。
ただし、現時点ではあくまで有識者会議で示された見直しの方向性・原案です。評価水準や税負担のあり方を含め、今後さらに議論が重ねられ、最終的には税制改正のプロセスを経て決定されます。国税庁は2026年秋を目途に詳細を詰めるとしており、続報を注視する必要があります。議論の経過や具体的な資料は国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」の配布資料でも公表されています。
Summaryまとめ|非上場株式の評価見直しへの備え
今回の非上場株式の評価見直し案は、会社規模による区分を廃止し、類似業種比準方式に代えて残余利益方式へ一本化するという抜本的な改正です。ポイントは、時価から簿価ベースへ、そして「規模」から「収益力」へと評価の軸が移ること。高収益企業は評価が上がりやすく、低収益企業は下がりやすいという構造の変化は、自社株を後継者へ引き継ぐ計画に直接影響します。
制度の行方はまだ流動的ですが、方向性が見えた今こそ、現状の評価額を把握し、複数のシナリオで承継プランを点検しておくことが有効です。三瀬国際税務会計事務所では、事業承継や生前対策・相続手続を一貫してサポートしています。自社株評価や承継対策にご不安のある方は、お早めにご相談ください。


