2026.09.11 ブログ
成年後見制度の改正(後見・保佐を廃止し補助に一元化)

成年後見制度が、制度創設以来はじめてとなる抜本的な見直しを迎えます。2026年(令和8年)6月17日、後見・保佐の制度を廃止して「補助」に一元化する改正民法が成立し、同月24日に公布されました。「一度後見人がつくと本人が亡くなるまで外せない」といった従来の課題に応えるもので、相続対策や高齢の親御さまの財産管理を考えるうえで見逃せない改正です。本コラムでは、相続を専門とする税理士の視点から、今回の成年後見制度の改正のポイントと実務への影響を、できるだけわかりやすく整理してお伝えします。

1. 成年後見制度とは(現行制度のおさらい)
成年後見制度とは、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が十分でない方について、本人に代わって財産を管理し、契約などの法律行為を支援する人(後見人など)を選ぶ制度です。ご本人が不利益な契約を結んでしまうことを防いだり、預貯金の管理や不動産の処分、遺産分割協議への参加などを適切に行ったりするために利用されてきました。
現行制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの類型に分かれています。判断能力がほとんどない方には「後見」、著しく不十分な方には「保佐」、不十分な方には「補助」が用いられ、それぞれ支援者(成年後見人・保佐人・補助人)に与えられる権限の範囲が異なります。
| 類型 | 対象となる本人の状態 | 支援者 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠くのが通常の状態 | 成年後見人 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 保佐人 |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 補助人 |
この制度は判断能力が低下した方を守るうえで大きな役割を果たしてきた一方で、「本人の状態が回復しても利用をやめにくい」「本人の意思よりも支援者の判断が優先されがち」「必要以上に広い権限が一律に与えられてしまう」といった指摘が、かねてから寄せられていました。とくに「後見」の類型では、いったん後見人が選任されると、原則としてご本人が亡くなるまで制度の利用が続き、途中でやめることが難しいという点が、利用をためらう大きな要因となっていました。また、実際に必要なのは特定の手続だけであっても、後見が開始されると広範な権限が一律に付与されるため、ご本人が本来できるはずの日常的な判断まで制限されてしまう、という声もありました。こうした課題を解消し、より本人本位の制度へと転換するために、今回の抜本改正が行われることになったのです。
2. 2026年改正の全体像
まず、今回の改正の全体像を確認しましょう。この改正は、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)およびその施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)として成立しました。法務省の公表資料によれば、この改正は大きく分けて「成年後見制度の見直し」と「遺言制度の見直し」の2つの柱で構成されています。
- 成年後見制度の見直し……後見・保佐の制度を廃止し、「補助」の制度に一元化。本人にとって必要な範囲でその利用を可能とする。
- 遺言制度の見直し……押印の任意化などに加え、電子データ等で作成して法務局に保管する「保管証書遺言(デジタル遺言)」を創設。
このうち遺言制度の見直し、とりわけデジタル遺言については、別のコラム「保管証書遺言(デジタル遺言)とは|2026年新設の制度を税理士が解説」で詳しく解説しています。本コラムでは、もう一方の柱である成年後見制度の見直しに焦点を当てて掘り下げていきます。
3. 最大の柱|後見・保佐を廃止し「補助」へ一元化
それでは、成年後見制度の改正の中身を詳しく見ていきましょう。今回の改正で最も大きな変更点は、これまでの「後見」と「保佐」の制度を廃止し、「補助」の制度に一元化するという点です。法務省は改正の狙いを、本人にとって必要な範囲でその利用を可能とすることと説明しています。
現行の「後見」では、成年後見人に包括的で広範な権限が一律に与えられ、本人はほとんどの法律行為を単独で行えなくなります。これは本人保護には資する一方で、「本人の自己決定を過度に制限してしまう」との批判がありました。改正後は、支援の枠組みが「補助」を基本とする形に統一され、ご本人に残された能力を尊重しながら、必要な事項に限って支援を受けるという発想へと大きく舵が切られます。
- 「後見」「保佐」という区分がなくなり、支援の枠組みが「補助」へと集約される。
- 一律に広い権限を与えるのではなく、本人に必要な範囲で支援する考え方が基本に。
- ご本人の意思・自己決定を、これまで以上に尊重する制度設計へ。
さらに、関係法律を整える整備法では、後見の制度が廃止されることに伴い、法令上「成年被後見人」を対象としていた規定を削除したり、「特定補助人を付する旨の審判を受けた者」を対象とする規定に改めたりする、といった所要の整備が行われます。つまり、これまで数多くの法律の中で使われてきた「成年被後見人」という概念そのものが、制度の枠組みの変更にあわせて見直されることになります。
4. 改正で何が変わるのか(現行との比較)
改正の前後で、制度の考え方がどのように変わるのかを整理すると、次のようになります。
| 比較の視点 | 現行制度 | 改正後(見直し後) |
|---|---|---|
| 類型の区分 | 後見・保佐・補助の3類型 | 「補助」に一元化 |
| 支援者の権限 | 類型に応じて一律・包括的に付与 | 本人に必要な範囲で付与する発想 |
| 本人の自己決定 | 広く制限されがち | できる限り尊重する方向へ |
| 「成年被後見人」の概念 | 多くの法律で使用 | 削除・置き換えなど所要の整備 |
このように制度が「補助」を基本とする形に集約されることで、これまで「後見類型でなければ支援できない」とされていたケースでも、ご本人の状態に応じた柔軟な支援が期待されます。ただし、具体的な運用の細部(審判の手続や支援者の権限の定め方など)については、今後定められる政令や運用指針によって明らかになっていく部分も多く、続報に注意が必要です。
5. いつから始まる?施行スケジュール
次に、施行スケジュールを確認しておきましょう。改正法は2026年(令和8年)6月24日に公布されましたが、施行(実際に効力が生じること)は改正の内容ごとに時期が分かれています。法務省が公表しているスケジュールは次のとおりです。
| 改正の内容 | 施行時期の目安 |
|---|---|
| 成年後見制度の見直し | 公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日 |
| 遺言制度の見直しのうち押印の任意化等 | 公布の日から起算して1年を超えない範囲内で政令で定める日 |
| 保管証書遺言(デジタル遺言)の創設等 | 公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日 |
成年後見制度の見直しについては、システムや運用体制の整備を伴うため、公布日から最長で2年6か月以内という比較的長い準備期間が設けられています。具体的な施行日は今後政令で定められますので、実際に新制度が動き出すまでには一定の時間があります。現在すでに後見・保佐を利用されている方への経過措置なども含め、正式な情報は法務省の公式ページで随時確認することをおすすめします。
6. 相続・生前対策への影響と税理士からのアドバイス
ところで、成年後見制度は相続の場面と密接に関わります。たとえば、相続人の中に判断能力が十分でない方がいる場合、その方は単独で遺産分割協議に参加できず、後見人など支援者の関与が必要になります。したがって、今回の改正で制度が「補助」中心に見直されることは、こうした相続手続の進め方にも少なからず影響します。
また、ご高齢の親御さまが元気なうちに、将来の判断能力低下に備えて財産管理や承継の道筋をつけておくこと(生前対策)は、これまで以上に重要になります。成年後見制度は「判断能力が低下してから」利用する制度ですが、元気なうちに準備できる対策として、次のような選択肢もあわせて検討する価値があります。
- 遺言書の作成……ご自身の意思を明確に残す。新設の保管証書遺言(デジタル遺言)という選択肢も。
- 生前贈与・財産の整理……誰に何を承継するかを早めに決めておく。
- 家族信託・任意後見などの活用……判断能力低下後の財産管理に備える。
税務の観点からも、判断能力が低下してからでは生前贈与や不動産の組み替えといった相続税の節税対策が実行しにくくなるという現実があります。後見が開始されると、支援者は原則としてご本人の財産を維持・保全する立場に立つため、相続税対策のための積極的な財産処分は行いにくくなるのです。だからこそ、判断能力が十分なうちに方針を固めておくことが、ご本人の想いを実現するうえでも、ご家族の税負担を軽減するうえでも、きわめて重要になります。
当事務所では、相続税申告はもちろん、判断能力が低下する前からの生前対策や、いざ相続が発生した際の相続手続の流れまで、ワンストップでサポートしています。会社経営者の方については、事業承継の観点からの備えも重要です。「うちの場合はどう準備すればよいのか」といったご相談は、経験豊富な税理士にお任せください。
7. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 今すでに後見人がついている場合、どうなりますか?
すでに利用されている方への取扱い(経過措置など)については、今後定められる政令や関係規定によって明らかになる部分があります。施行までには一定の準備期間があるため、正式な情報を法務省の公式ページで確認しつつ、個別の状況については専門家にご相談ください。
Q2. 改正はいつから始まりますか?
成年後見制度の見直しは、公布日(2026年6月24日)から起算して2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日に施行されます。具体的な施行日は今後決まります。
Q3. 「後見」がなくなると、判断能力がほとんどない方は支援を受けられなくなるのですか?
いいえ。制度が「補助」に一元化されるのは、支援の枠組みを整理し、本人にとって必要な範囲で柔軟に支援できるようにすることが目的です。支援そのものが受けられなくなるわけではありません。運用の詳細は今後の政令等で具体化されます。
Q4. 相続対策として、今からできることはありますか?
あります。判断能力が十分なうちに遺言書を作成したり、財産を整理して承継の方針を決めておいたりすることが有効です。詳しくは生前対策のページもご覧ください。
8. まとめ
このように、2026年に成立した改正民法により、成年後見制度は「後見・保佐を廃止し、補助に一元化する」という抜本的な見直しを迎えます。ご本人の自己決定を尊重し、必要な範囲で支援するという新しい考え方への転換は、相続や生前対策のあり方にも影響を与えます。施行までには準備期間がありますが、だからこそ今のうちに、ご家族の状況にあわせた備えを整えておくことが大切です。
「親の判断能力が心配」「相続人に支援が必要な家族がいる」「元気なうちに相続対策をしておきたい」――そうしたお悩みは、相続を専門とする当事務所へお気軽にご相談ください。制度改正の最新動向をふまえ、お客様一人ひとりに合った最適な対策をご提案いたします。
※本コラムは2026年9月時点で公表されている情報をもとに、一般的な解説を目的として作成したものです。改正法の具体的な施行日や運用の詳細は、今後定められる政令等により変更・具体化される可能性があります。最新かつ正確な情報は法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」をご確認ください。個別の判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。


