2026.06.10 ブログ
配当還元方式とは? | 中小企業経営者のための株式評価入門
配当還元方式とは?
中小企業経営者が知っておくべき
株式評価の基礎知識
非上場株式の評価方法は一つではありません。誰が株式を持っているか、誰に移すのか——
その答えによって、適用される評価方式はまったく異なります。
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目次
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1. 非上場株式の評価はなぜ複雑なのか
上場株式であれば、取引所で日々売買されているため、時価はリアルタイムで把握できます。しかし中小企業の株式(非上場株式)には市場がなく、客観的な「値段」が存在しません。
そのため、相続や贈与が発生した際には、税法上の評価額を計算して相続税・贈与税の課税ベースとする必要があります。この評価方法を定めているのが、国税庁の「財産評価基本通達」です。
非上場株式の評価方式は大きく二つに分類されます。一つは、会社の実態(純資産・収益力)をもとに評価する原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式など)。もう一つが、本稿で解説する配当還元方式です。
どちらの方式を使うかは「誰が株主か(株主の立場)」によって自動的に決まります。経営者が恣意的に選択できるものではありません。ただし、この区別を正しく理解することで、合法的な節税・事業承継対策の幅が大きく広がります。
2. 配当還元方式とは何か
配当還元方式とは、株主が会社から受け取る配当金の額をベースに株式の評価額を算出する方法です。
その考え方はシンプルです。「株式の価値は、将来にわたって受け取れる配当金を現在価値に換算したもの」と捉え、年間配当金額を一定の還元率(10%)で割り戻すことで株価を算出します。
原則的評価方式と比較すると、配当還元方式で計算した株価はかなり低くなるケースがほとんどです。会社の内部留保や資産規模を直接反映しないため、業績好調な会社でも評価額が低く抑えられる傾向があります。
この「評価額が低くなる」という特性が、事業承継の場面では非常に重要な意味を持ちます。株式を贈与・譲渡する際の税負担を大幅に軽減できる可能性があるからです。
3. 計算式と具体的な数値例
配当還元方式の計算式は以下のとおりです。
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計算式 配当還元方式 — 評価額の算出
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具体的な計算例
| 資本金 | 5,000万円 |
| 発行済株式数 | 10万株 |
| 1株当たり資本金等の額 | 500円 |
| 直前期末以前2年間の配当金合計 | 200万円+180万円=380万円 |
| 1株当たり年平均配当金額(2年平均) | 380万円 ÷ 2 ÷ 10万株=19円 |
| 1株50円換算の年配当金額 | 19円 × (50円÷500円)=1.9円 |
この例では1株あたり190円と算出されます。もし同社の純資産価額方式で計算すると、内部留保が厚い優良企業であれば1株あたり数千円〜数万円になることも珍しくありません。配当還元方式がいかに低い評価額をもたらすかが、この数字からも読み取れます。
なお、無配当(配当をゼロにする)の場合でも、評価額がゼロにはなりません。最低2円50銭の評価額が定められているため、配当を意図的にゼロにして評価を下げようとしても限界があります。
4. 原則的評価方式との違い
| 比較項目 | 配当還元方式 | 原則的評価方式 |
|---|---|---|
| 適用対象 | 少数株主(同族外) | 支配株主(同族株主) |
| 評価の基礎 | 受取配当金額 | 類似業種比準価額・純資産価額 |
| 評価額の水準 | 一般的に低い | 一般的に高い |
| 計算の複雑さ | 比較的シンプル | 複雑(財務データが必要) |
| 節税効果 | 大きい | 小さい(場合による) |
| 適用の選択 | 株主の立場で自動決定 | 株主の立場で自動決定 |
重要なのは、どちらの方式を適用するかは「経営者が選ぶ」ものではなく、株主の会社に対する支配力・影響力によって税法上に定められているという点です。この前提を誤解すると、誤った評価・誤った申告につながります。
5. 配当還元方式が適用される要件
財産評価基本通達の定めでは、「同族株主以外の株主等」が取得した株式については、配当還元方式による評価が認められています。
「同族株主以外の株主」とは
同族株主とは、課税時期(相続・贈与時)において筆頭株主グループが保有する株式数の割合が30%以上(または50%以上)の場合の、その筆頭株主グループに属する株主を指します。
これに該当しない株主——つまり経営に対して実質的な影響を与えられない少数株主——については、配当還元方式が適用されます。
5%未満ルール
同族株主グループに属する場合でも、その株主の議決権割合が5%未満であり、かつ役員でも中心的な同族株主でもない場合は、配当還元方式の適用が認められます。
この「5%未満」という基準が、事業承継対策において非常に重要な意味を持ちます。後述する活用方法と深く関係しています。
「少数株主に株式を移せば常に配当還元方式が使える」と単純に考えるのは危険です。税務署は株式移転の実態や目的を精査します。節税のみを目的とした形式的な株式分散は否認されるリスクがあります。税理士への事前相談が必須です。
6. 活用上の注意点とよくある誤解
誤解① 配当をゼロにすれば評価額がゼロになる
先述のとおり、最低評価額(2円50銭)が設けられています。なお、中小企業では無配当としているケースが多く、それ自体は珍しいことではありません。ただし、無配当が続く場合、配当還元方式の評価額は最低額(2円50銭)に張り付いたままとなるため、評価額を調整する手段としての配当政策の活用余地は限られます。
誤解② 評価が低いほど税金が安くなる=常に有利
配当還元方式による低評価を活用した株式の贈与は、受贈者(もらう側)の取得コストが低く設定されることを意味します。将来、その株式をさらに売却・移転する場合、取得価額が低いため譲渡所得が大きく膨らむ可能性があります。長期的な視点での税務シミュレーションが欠かせません。
誤解③ 誰に贈与してもよい
配当還元方式を適用させるためには、贈与・移転後の株主が「同族株主以外」または「5%未満の同族株主」である必要があります。受け取った人が後に取締役に就任した場合や、議決権割合が変化した場合は、再評価が必要になるケースもあります。
| ✓配当金額の設定と2年間の実績が評価額に直結することを理解する |
| ✓株主構成の変化(増資・相続等)が評価方式に影響しないか定期的に確認する |
| ✓移転後の株主が役員に就任する予定がないか、事前に計画する |
| ✓将来の買取・売却時の課税も含めた出口戦略を設計する |
| ✓税理士等の専門家と連携し、実務的な検証を行う |
7. 事業承継・株式移転への実務的活用
中小企業の事業承継において、配当還元方式は以下のような場面で戦略的に活用されています。
従業員持株会への活用
従業員持株会は一定の要件を満たせば、「少数株主」として位置づけられるため、配当還元方式での株式取得が可能です。経営者の株式の一部を従業員持株会に移すことで、①経営者の相続財産の圧縮、②従業員のモチベーション向上、③会社への帰属意識の醸成、という三つの効果が期待できます。
ただし、持株会の設計・規約の整備・配当政策との整合性など、複合的な準備が必要です。
同族株主グループ外への株式分散
配当還元方式を適用するためには、株式の取得者が「同族株主グループ外」または「議決権割合5%未満の同族株主」である必要があります。親族への分散は、その親族も同族株主グループに含まれるため、配当還元方式の適用対象にはなりません。
有効な分散先としては、従業員持株会や同族関係のない第三者(取引先など)が挙げられます。これらへの株式移転を計画的に行うことで、経営者の保有株式数を減らし、相続財産の圧縮につなげることができます。ただし、税務上の否認リスクもあるため、計画段階から専門家の関与が不可欠です。
金庫株(自己株式取得)との組み合わせ
会社が自己株式を取得する際にも、少数株主からの取得であれば配当還元方式の評価額を基準とした取引が認められる場合があります。これにより、会社側は低コストで株式を回収し、集中管理が可能になります。
配当還元方式を活用した対策は、実施から効果が出るまでに数年単位のリードタイムが必要です。相続や突発的な事業譲渡のタイミングに慌てて対応するのではなく、経営者が元気なうちに、10年先を見据えた計画として設計することをお勧めします。
8. まとめ:経営者として押さえるべきポイント
配当還元方式は、少数株主が保有する非上場株式を評価する際に用いる方式であり、一般的に原則的評価方式よりも大幅に低い評価額をもたらします。この特性を正しく理解し、長期的な事業承継計画に組み込むことで、相続税・贈与税の負担を合法的に軽減できる可能性があります。
しかしその一方で、適用要件の誤解・配当政策との不整合・将来の譲渡課税など、見落としやすいリスクが複数存在します。「低評価=必ず有利」という単純な思い込みは禁物です。
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経営者が今日からできる3つのアクション ① 自社の株主構成を確認する——同族株主・少数株主・5%未満の割合を把握し、配当還元方式が適用される株主は誰かを整理する。 ② 過去2年間の配当実績を確認する——配当還元方式の評価額は配当金額に直結します。配当政策の見直しが評価額に与える影響をシミュレーションする。 ③ 事業承継の専門家に相談する——税理士などの専門家と連携し、配当還元方式を組み込んだ長期的な承継計画を策定する。 |
本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法律アドバイスではありません。具体的な対応については、税理士などの専門家にご相談ください。


