2026.11.06 ブログ
iDeCoの相続税|死亡一時金は非課税枠の対象?受取人・3年と5年の期限を税理士が解説

老後資金づくりの制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)を利用する方が年々増えています。掛金が全額所得控除になるなど、生きている間のメリットはよく知られていますが、加入者が亡くなったときに積立金がどう扱われ、相続税がどうなるのかまで把握している方は多くありません。
結論からいえば、iDeCoの残高は「死亡一時金」としてご遺族に支払われ、原則として死亡退職金と同じ「みなし相続財産」として相続税の対象になります。一方で、受け取る人の順位が民法の相続とは異なることや、請求しないまま期限を過ぎると扱いが変わることなど、預貯金の相続とは違う注意点もあります。本コラムでは、ご家族の目線でポイントを整理します。
1. iDeCoの加入者が亡くなると「死亡一時金」が支払われる
iDeCoで積み立てたお金は、原則60歳以降に本人が「老齢給付金」として受け取る仕組みです。しかし、受け取りを終える前に加入者が亡くなった場合でも、積み立てた資産が消えてしまうことはありません。亡くなった時点の残高(個人別管理資産)が、ご遺族に「死亡一時金」として一括で支払われます。
ご遺族が年金形式で分割して受け取ることはできず、必ず一時金になります。また、自動的に振り込まれるわけではなく、ご遺族が運営管理機関(加入していた金融機関)を通じて請求の手続きを行う必要があります。制度の全体像は、厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」や「iDeCo公式サイト」でも確認できます。
2. 死亡一時金は「みなし相続財産」として相続税の対象
iDeCoの死亡一時金は、亡くなった方の預貯金のように遺産分割で分ける財産ではなく、法律で定められた受取人が自分の権利として受け取るお金です。ただ、亡くなったことをきっかけに受け取る財産であるため、相続税法では「退職手当金等」として相続財産とみなして課税されます(相続税法3条1項2号)。会社から支払われる死亡退職金と同じ扱いです。
そのため、他の財産と合計した遺産総額が基礎控除額を超える場合は、iDeCoの死亡一時金も含めて相続税の申告が必要になります。相続税がかかるかどうかの目安は「相続税はいくらから?基礎控除の計算方法」で解説しています。
ポイント
iDeCoの死亡一時金は、死亡退職金と同じ「退職手当金等」として相続税の対象になる
遺産分割協議の対象ではなく、受取人固有の財産として扱われる
相続税の基礎控除を超えるかどうかの判定には、死亡一時金も含めて計算する
3. 非課税枠「500万円×法定相続人の数」の使い方
退職手当金等には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(相続税法12条1項6号、国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」)。iDeCoの死亡一時金にもこの枠が使えます。
ここで注意したいのは、この非課税枠が勤務先から支払われる死亡退職金や企業型DCの死亡一時金と「共通の枠」だという点です。iDeCo用に別枠があるわけではなく、退職手当金等をすべて合計して判定します。一方、生命保険金の非課税枠(同じく500万円×法定相続人の数)とは別枠なので、両方を受け取る場合はそれぞれの枠を使えます。
たとえば、法定相続人が妻・長男・長女の3人で、非課税限度額が1,500万円のケースで考えてみます。
| 受取人 | 受け取った退職手当金等 | 非課税となる金額 | 課税される金額 |
|---|---|---|---|
| 妻 | 1,200万円(iDeCo死亡一時金600万円+会社の死亡退職金600万円) | 1,000万円 | 200万円 |
| 長男 | 600万円(会社の死亡退職金) | 500万円 | 100万円 |
| 合計 | 1,800万円 | 1,500万円 | 300万円 |
複数の相続人が受け取る場合、非課税限度額は各人が受け取った金額の割合で按分します(上の例では妻1,500万円×1,200/1,800=1,000万円)。一人ひとりが1,500万円まで使えるわけではない点に注意してください。
4. 非課税枠が使えない人・税負担が重くなる人
非課税枠を使えるのは、民法上の相続人が受け取った部分に限られます。iDeCoの受取人は後述のとおり民法の相続人と一致しないことがあるため、次のようなケースでは税負担が想定より重くなることがあります。
ここに注意
事実婚(内縁)の配偶者……iDeCoでは第1順位で受け取れますが、民法上の相続人ではないため非課税枠は使えません
相続放棄をした人……死亡一時金は受け取れますが、非課税枠は使えません(ただし非課税限度額を計算する「法定相続人の数」には放棄した人も含めます)
2割加算の対象者……配偶者・子・父母以外(兄弟姉妹、代襲相続人でない孫、内縁の配偶者など)が受け取ると、相続税額が2割加算されます(国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」)
5. 受け取る人は法律で決まっている
iDeCoの死亡一時金を受け取る人は、遺言や遺産分割協議ではなく、確定拠出年金法41条で決められています。加入者が生前に受取人を指定していればその人が受け取り、指定がなければ次の順位になります(確定拠出年金法(e-Gov法令検索))。
| 順位 | 受け取れる人 |
|---|---|
| 指定受取人 | 配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の中から、本人が生前に指定した人 |
| 第1順位 | 配偶者(事実婚を含む) |
| 第2順位 | 亡くなった方の収入で生計を維持していた子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹(この順) |
| 第3順位 | 上記以外で、亡くなった方の収入で生計を維持していた親族 |
| 第4順位 | 生計を維持していなかった子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹(この順) |
同じ順位の人が複数いる場合は等分して受け取ります。「配偶者と子で法定相続分どおりに分ける」という民法のイメージとは異なり、配偶者がいれば原則として配偶者が全額を受け取る点が大きな違いです。
6. 「3年」と「5年」の2つの期限に注意
iDeCoの死亡一時金には、性質の異なる2つの期限があります。混同しやすいので、表で整理します。
| 期限 | 基準 | 期限を過ぎた場合 |
|---|---|---|
| 税務上の3年 | 死亡後3年以内に支給額が確定したか | 相続税ではなく、受け取った人の一時所得として所得税の対象 |
| 法律上の5年 | 死亡後5年以内に裁定請求をしたか | 受取人がいないものとみなされ、亡くなった方の相続財産として遺産分割の対象に |

5年間請求がなく相続財産に切り替わった場合は、死亡一時金としての非課税枠の対象外となる可能性が高く、すでに相続税申告を済ませていれば申告のやり直しが必要になることもあります。相続税の申告期限(亡くなったことを知った日の翌日から10か月)に合わせて、早めに請求まで済ませておくのが安全です。申告期限については「相続税の申告期限は10か月|過ぎたら?間に合わない時の対処を解説」もご覧ください。
7. 亡くなったタイミング別の取扱い
iDeCoの相続税の扱いは、亡くなった時点で受け取りがどこまで進んでいたかによって変わります。
| 亡くなった時点の状況 | 相続税の扱い |
|---|---|
| 受け取り開始前(積立中・運用のみ) | 残高が死亡一時金としてご遺族へ。退職手当金等として非課税枠の対象 |
| 年金形式で受け取っている途中 | 未受給の残高が死亡一時金としてご遺族へ。退職手当金等として非課税枠の対象 |
| 一時金ですでに全額受け取り済み | iDeCoとしての資産は残っていない。受け取ったお金は預貯金など通常の相続財産として課税(非課税枠なし) |
なお、本人が生前に老齢給付金を受け取る場合は所得税(退職所得または雑所得)の問題であり、相続税とは別の話です。「受け取ってから亡くなる」か「受け取る前に亡くなる」かで、相続税の非課税枠が使えるかどうかが変わる点は、生前の受取方法を考える際にも意識しておきたいところです。
8. ご本人・ご家族が今からできる備え
iDeCoは郵便物も少なく、ご家族が加入の事実を知らないまま期限を迎えてしまうケースがあります。次の点を確認しておきましょう。
iDeCoに加入していること、加入先の金融機関(運営管理機関)をご家族に伝えておく
受取人を指定したい場合は、運営管理機関所定の手続きで登録しておく(遺言書だけでは指定になりません)
勤務先の死亡退職金や企業型DCの有無も含め、非課税枠を共有する財産を整理しておく
相続が起きたら、死亡の届出だけで終わらせず、死亡一時金の請求まで進んだかを確認する
相続税の申告を依頼する税理士に、iDeCoの残高通知や支払通知を必ず渡す
デジタル資産と同様、iDeCoも「ご家族が気づきにくい財産」の一つです(参考:「暗号資産の相続で遺族が注意すべきこと」)。財産の全体像を整理する生前対策の進め方は「生前対策」のページでもご紹介しています。
9. よくあるご質問(FAQ)
Q1. iDeCoの死亡一時金は遺産分割協議で分ける必要がありますか?
いいえ。指定受取人または法律で定められた遺族が受け取る死亡一時金は、受取人固有の財産として扱われ、原則として遺産分割の対象にはなりません。ただし、相続税の計算では「みなし相続財産」として課税対象に含めます。
Q2. 相続放棄をしても、iDeCoの死亡一時金は受け取れますか?
受取人固有の権利なので、相続放棄をしても受け取れる可能性があります。ただし、相続放棄をした人が受け取った分には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使えません。また、5年経過後に相続財産へ切り替わった後は、放棄した人は受け取れなくなります。
Q3. 会社の死亡退職金とiDeCoの死亡一時金、両方に非課税枠がありますか?
いいえ。どちらも「退職手当金等」に該当するため、非課税枠は合計で「500万円×法定相続人の数」です。生命保険金の非課税枠とは別枠になります。
Q4. 亡くなってから3年以上たって受け取った場合はどうなりますか?
死亡後3年を経過してから支給額が確定した場合は、相続税ではなく、受け取った方の一時所得として所得税の確定申告が必要になります。
10. まとめ|iDeCoも相続税申告の対象財産です
iDeCoの加入者が亡くなると、残高は死亡一時金としてご遺族に支払われ、死亡退職金と同じくみなし相続財産として相続税の対象になります。「500万円×法定相続人の数」の非課税枠は使えますが、会社の死亡退職金と共通の枠であること、事実婚の配偶者や相続放棄をした人には使えないことに注意が必要です。
また、受け取る人の順位は民法と異なり、請求をしないまま5年が過ぎると扱いが大きく変わります。iDeCoに加入していた方の相続では、加入先の確認と死亡一時金の請求を、相続税申告のスケジュールと並行して早めに進めることが大切です。
iDeCoを含む相続税申告のご相談は当事務所へ
iDeCo・企業型DC・死亡退職金・生命保険金などのみなし相続財産の整理から、非課税枠の計算、相続税申告まで、相続を専門とする税理士がワンストップでサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。
※本コラムは2026年11月時点の法令・公表情報をもとに、一般的な解説を目的として作成したものです。制度の詳細は国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」、相続税法・確定拠出年金法(e-Gov法令検索)をご確認ください。死亡一時金の受給資格の審査・支払いは記録関連運営管理機関等が行います。個別の判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。


