2026.10.15 ブログ
暗号資産の相続で遺族が注意すべきこと

暗号資産の相続が、いま多くのご家庭で身近な問題になりつつあります。ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産(仮想通貨)を保有する方が増え、相続の現場でも暗号資産が見つかるケースが珍しくなくなりました。暗号資産は預貯金や不動産と同じく相続税の課税対象ですが、通帳も郵便物もないため「そもそも持っていたことに気づかない」「パスワードが分からず取り出せない」といった、従来の財産にはない問題が起こります。
本コラムでは、相続を専門とする税理士の視点から、暗号資産を相続するご遺族が注意すべきポイントを、財産の探し方・評価方法・税金・期限・詐欺対策の順に整理してお伝えします。
1. 暗号資産の相続にも相続税がかかる
国税庁が公表している「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」でも示されているとおり、相続や遺贈によって取得した暗号資産は相続税の課税対象です。相続開始時点の時価で評価し、預貯金や不動産、有価証券などほかの財産と合算して相続税を計算します。
遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続税の申告が必要になります。暗号資産の値上がりによって、「自分の家は相続税と無縁だと思っていたのに、実は基礎控除を超えていた」というケースも少なくありません。基礎控除の計算方法は「相続税はいくらから?基礎控除の計算方法」で詳しく解説しています。
暗号資産の保管方法は、大きく分けて次の2つです。どちらで保管していたかによって、ご遺族の手続きの難しさが大きく変わります。
取引所(暗号資産交換業者)に預けている……bitFlyerやCoincheckなど、金融庁に登録された事業者の口座で管理している状態
自己管理型ウォレットで保管している……MetaMask(メタマスク)などのアプリや、USB型のハードウェアウォレットで本人が管理している状態
暗号資産の保管場所によって、相続手続きの難易度は大きく異なります。
2. 暗号資産の相続で遺族が直面する「見つからない・取り出せない」問題
取引所に預けていた場合
取引所は本人確認を済ませた口座で資産を管理しているため、ご遺族が所定の相続手続きを行えば、暗号資産を承継できます。一般的には、取引所へ連絡したうえで、被相続人の死亡がわかる戸籍謄本、相続人の戸籍謄本・印鑑証明書、遺産分割協議書などを提出し、日本円に換金して払い出すか、相続人の口座へ移管する形で手続きが進みます。必要書類や対応は取引所ごとに異なるため、まずは各社の相続窓口に確認しましょう。
相続税の申告のためには、相続開始日時点の残高証明書の発行もあわせて依頼しておくと、その後の評価がスムーズです。
自己管理型ウォレットで保管していた場合
MetaMaskなどの自己管理型ウォレットは、「シークレットリカバリーフレーズ」(12〜24個の英単語の並び)や秘密鍵を知っている人しか資産を動かせない仕組みです。運営会社もフレーズを保管していないため、ご遺族が問い合わせても資産の開示や復元はしてもらえません。フレーズや端末のパスワードの手がかりが見つからなければ、資産は事実上、永久に取り出せなくなってしまいます。
ここに注意
「取り出せないのだから申告しなくてよい」とは限りません。暗号資産は、取り出せるかどうかとは別に、相続財産として存在しています。存在を把握している暗号資産をどう扱うかは、状況に応じた慎重な判断が必要ですので、自己判断で申告から外さず、税理士にご相談ください。
3. 暗号資産を見つけるための調べ方
暗号資産は通帳や証書が発行されないため、ご遺族が手がかりを一つずつ拾い集める必要があります。次のような場所を確認してみてください。
財産調査のチェックリスト
銀行通帳やネットバンキングに、取引所名義への入金・取引所からの出金がないか
メールに、取引所からのログイン通知・取引報告・NFTマーケットの購入通知がないか
スマートフォンのアプリ、パソコンのブラウザ拡張機能にウォレットが入っていないか
確定申告書の控えに、暗号資産の雑所得の記載がないか
手帳・金庫・エンディングノートに、英単語が並んだメモやUSB型の機器がないか
また、「0x」から始まるようなウォレットアドレスがわかれば、パスワードがなくても残高や取引履歴を確認できます。ブロックチェーン上の取引は公開されており、Etherscanなどの「ブロックチェーンエクスプローラー」と呼ばれるサイトで誰でも照会できるためです。取引所の出金履歴に送金先として記録されたアドレスが、大きな手がかりになります。
なお、故人のスマートフォンの解約やパソコンの処分は、調査が終わるまで待つことが大切です。端末を初期化するとウォレットのデータが消えてしまうほか、二段階認証のSMSが受け取れなくなり、取引所へのログインや手続きが難しくなることがあります。
4. 相続税の評価方法|相続開始日の価格で決まる
国税庁のFAQによれば、取引所などで継続的に価格が公表され、十分な取引がある「活発な市場が存在する暗号資産」は、相続人などの納税義務者が取引を行っている暗号資産交換業者が公表する、課税時期(相続開始日)の取引価格によって評価します。
購入価格と売却価格がそれぞれ公表されている場合には、売却価格で評価して差し支えないとされています。
活発な市場が存在しない暗号資産は、売買実例価額や類似する暗号資産の価格などを参考に、個別に評価します。
ここで注意したいのが、上場株式との違いです。上場株式には、相続開始日の終値だけでなく過去3か月の月平均額のうち最も低い価額を選べる仕組みがありますが、暗号資産にはこうした選択肢がありません。
| 比較の視点 | 上場株式 | 暗号資産 |
|---|---|---|
| 評価の基準 | 相続開始日の終値など | 相続開始日の取引価格 |
| 月平均額の選択 | 前3か月の月平均額から選べる | 選べない |
| 価格変動の影響 | 一定程度ならせる | 相続開始日の価格がそのまま反映 |
暗号資産は価格変動が大きいため、相続開始後に価格が急落しても、相続税の評価額は相続開始日の高い価格のままです。納税資金が不足しないよう、売却のタイミングも含めて早めに検討する必要があります。
5. 所得税で注意すべき3つのポイント
① 亡くなった年の売却益は準確定申告が必要
被相続人が亡くなった年に暗号資産を売却して利益を得ていた場合、相続人は相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に、被相続人に代わって所得税の確定申告(準確定申告)を行います。暗号資産同士の交換や、暗号資産での買い物も課税の対象となる点に注意が必要です。手続きの概要は国税庁「No.1270 死亡した人の所得税の確定申告(準確定申告)」で確認できます。
② 相続人が売却したときは被相続人の取得価額を引き継ぐ
相続した暗号資産を相続人が売却した場合、利益の計算に使う取得価額は、原則として被相続人の取得価額を引き継ぎます。そのため、被相続人の保有中に生じた値上がり益にも所得税がかかり、相続税と所得税の両方を負担する形になります。さらに、相続した土地や株式の売却で使える「相続税の取得費加算の特例」は、雑所得となる暗号資産には適用されません。
③ 2028年から分離課税20%になる見込み
現在、個人の暗号資産の売却益は原則として雑所得の総合課税で、住民税と合わせて最高55%の税率がかかります。2026年に成立した改正法により、国内の登録業者で扱う一定の暗号資産(特定暗号資産)の譲渡益は、申告分離課税(所得税15%・住民税5%、別途復興特別所得税)へ移行することになりました。適用は、金融商品取引法等の改正法の施行日が属する年の翌年1月1日以後の譲渡からで、2028年1月からが有力とされています。売却時期によって税負担が大きく変わる可能性がありますが、価格変動リスクや納税資金とのバランスを踏まえた判断が欠かせません。
6. 相続の期限と暗号資産のスケジュール
暗号資産の調査には時間がかかりがちですが、相続手続きの期限は待ってくれません。主な期限と、その時期に行う作業は次のとおりです。
相続開始から10か月までの主な期限と、暗号資産について行う作業。
とくに注意したいのが3か月以内の相続放棄・限定承認の判断です。被相続人がレバレッジ取引や暗号資産の借入を行っていた場合、マイナスの財産が残っている可能性があります。調査が間に合わないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることもできます(裁判所「相続の放棄の申述」)。
相続税の申告・納付期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です(国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」)。期限を過ぎた場合の影響や対処法は「相続税の申告期限は10か月|過ぎたら?間に合わない時の対処を解説」をご覧ください。
7. 詐欺・相続人間のトラブルに注意
暗号資産の相続では、ご遺族の不安につけ込む詐欺被害が後を絶ちません。次の点には十分にご注意ください。
被害を防ぐためのポイント
「ウォレットを復元します」とSNSなどで近づいてくる業者や、サポート担当を名乗る個人には応じない
リカバリーフレーズを、撮影・クラウド保存したり、Webサイトに入力したりしない
取引所を利用する際は、金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」に掲載されている登録業者一覧で登録の有無を確認する
また、相続人の一人がフレーズを見つけて、遺産分割が終わる前に暗号資産を勝手に送金・売却してしまうと、相続人間の深刻なトラブルにつながります。見つかった手がかりは相続人全員で共有し、記録を残しながら手続きを進めましょう。
8. 暗号資産の相続に備えて生前にできること
ここまで見てきたとおり、暗号資産の相続で最も大きな壁は「存在がわからない」「取り出せない」ことです。暗号資産をお持ちの方は、元気なうちに次のような備えをしておくことで、ご家族の負担を大きく減らせます。
財産のリストを作る……利用している取引所名、ウォレットの種類、アドレスを一覧にしておく(フレーズ自体は別の安全な場所で保管)
遺言書で承継先を決める……誰に暗号資産を承継させるかを明記する。新設の「保管証書遺言(デジタル遺言)」も選択肢に
生前贈与も検討する……価格変動を踏まえた贈与のタイミングについては「生前贈与と相続、どっちがお得?」も参考に
判断能力の低下に備える……認知症などで本人が管理できなくなると、暗号資産も動かせなくなります。「成年後見制度の改正」もあわせてご確認ください
当事務所では、暗号資産を含む財産の整理から生前対策、相続発生後の相続手続きの流れまで、ワンストップでサポートしています。
9. よくあるご質問(FAQ)
Q1. パスワードがわからない暗号資産にも相続税はかかりますか?
暗号資産は、取り出せるかどうかとは別に相続財産として存在しているため、取り出せないことだけを理由に申告不要とされるとは限りません。存在を把握している場合の扱いは個別の判断が必要ですので、税理士にご相談ください。
Q2. 取引所の相続手続きにはどのくらい時間がかかりますか?
取引所や書類の準備状況によって異なり、数週間から数か月かかることもあります。相続税の申告期限から逆算し、相続が発生したら早めに取引所へ連絡することをおすすめします。
Q3. 相続した暗号資産を売ると、どのような税金がかかりますか?
原則として被相続人の取得価額を引き継いで利益を計算し、所得税・住民税がかかります。現在は雑所得として総合課税されますが、2028年1月以後の譲渡からは、一定の暗号資産について20%の申告分離課税が適用される見込みです。
Q4. 分離課税が始まるまで売却を待ったほうがよいですか?
税率だけを見れば有利になる可能性がありますが、その間の価格下落リスクや、相続税の納税資金の確保も考える必要があります。ご家族の状況によって最適な判断は異なりますので、個別にご相談ください。
10. まとめ|暗号資産の相続は早めの調査が大切
暗号資産の相続は、相続税の課税対象でありながら、存在に気づきにくく、パスワードがなければ取り出せないという特有の難しさがあります。ご遺族は、端末や通帳・メールを保全して財産を洗い出し、相続開始日の価格で評価したうえで、3か月・4か月・10か月の各期限に間に合うよう手続きを進めることが大切です。あわせて、詐欺や相続人間のトラブルにも十分な注意が必要です。
「故人が暗号資産を持っていたようだが、どこから手をつければよいかわからない」「評価や申告の方法が不安」――そのようなときは、相続を専門とする当事務所へお気軽にご相談ください。
※本コラムは2026年10月時点で公表されている法令・情報をもとに、一般的な解説を目的として作成したものです。暗号資産の税務上の取扱いの詳細は国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(PDF)をご確認ください。分離課税の適用開始時期は、今後定められる政令により確定します。個別の判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。


